CASE 1 大和ハウス工業 60歳以上の社員の「役割」を明確化 シニアのモチベーションを高め、 “生涯現役”を可能にする工夫
大和ハウス工業は、2013 年に定年年齢を65歳に延長。
2015 年には、雇用上限年齢の定めのない「アクティブ・エイジング制度」を導入し、
会社が認める健康な人材であれば、“生涯現役”も可能な仕組みを構築した。
こうした施策を取れるのは、シニアが戦力として活躍しているからこそ。
「人件費はコストではなく投資」と言い切る同社は、
どのようにシニアの意欲を高め、能力を活かしているのだろうか。
●定年延長の狙い シニアの意欲を重視
大和ハウス工業が2013年に定年延長を決断したのは、単に人材確保のためだけではない。もちろん、建設業界全体に広がる人手不足の影響は大きい。従来の嘱託再雇用制度では、約半数が定年と同時にリタイアを選んでいた。再雇用者の数は6割、7割と徐々に増えてきてはいたが、それでも、3~4割のベテランが会社を去るのは、同社にとって大きな痛手だった。
近年の60歳到達者は、年間100 ~150人。将来的には年間300人程度にまで増える見込みだが、当面は人手不足のほうが頭が痛い状態だという。また、同社は長期ビジョンとして、創業100周年の2055年に売上高10兆円を掲げており、まだまだ成長軌道にある。再配置先に困るような状況は想定していない。
ただ人が足りないだけなら、再雇用制度を維持したまま、処遇水準を引き上げる方法もあったかもしれない。だが、そうではなく定年を延長したのは、シニアのモチベーションを重視したためだ。旧制度では、自身の評価や所属組織の業績が賃金・賞与に反映されず、処遇が固定的であり、それがシニアのやる気を削ぐ面もあった。また、いったん退職して「嘱託」となることで、一体感を持ちにくいという問題もあった。
「少し前の話ですが、ある大先輩が、若い職員に『嘱託さん』と呼ばれたとおっしゃるんです。大先輩にそんな言い方をする人がいるのかと驚きました。これは極端な例ですが、嘱託になると、シニア自身も周囲も、“正社員とは違う人”という意識を持ってしまいがちです。それでは、両者が一緒に仕事をしていくのは難しいのではないでしょうか。そこで、同じ仲間だという意識づけとして、定年自体を引き上げることにしました」(東京本社人事部次長の菊岡大輔氏、以下同)
ちなみに、旧制度下でもほとんどの人がフルタイム勤務だったので、定年を延長しても、働き方の面で不都合はなかった。
問題は人件費の面だが、同社の経営陣は、「人件費はコストではなく投資」という考え方。年間で億単位の経費増になるが、「投資する以上、それに見合ったリターンを返してくれればよい」と捉えている。
「シニアの処遇を上げるために、60歳以下の社員の賃金を引き下げたり、採用を抑制するようなことはしていません。投資に対してどれだけリターンがあったかというのは数値化できませんが、十分におつりがくるほどの効果が得られていると思います」
●60歳以降の処遇 運用を踏まえ制度を改善
定年退職日は65歳の年度末だが、旧定年年齢である60歳の年度末に役職定年となる。役職定年を設けたのは、組織の若返りのためだ。
ただし、60 歳を超えても引き続き部門長を任せたい人もいるため、「理事」という雇用区分を設けた。また、所属組織の業績と個人の評価を各人の賞与に反映し、「やってもやらなくても同じ」という意識を払しょく。年収水準は役職定年前の6~7割である(図1)。
さらに、1年間の運用を踏まえ、2014 年に制度を見直した(図2)。ポイントは2つ。1つは、理事制度を3階層にし、登用の門戸を広げると共に、昇格の機会を設けたことである。
「理事は部門長・部長クラスであり、ハードルが高いという問題がありました。副理事を設けたことで、課長クラスの役職を継続してほしい人や、高度な専門性を持ったプレーヤーを処遇しやすくしました」
もう1つは、理事以外の60歳以降の職員を「メンターコース」と「生涯現役コース」に区分したこと。メンターコースは、仕事の中心が後進の指導・育成であり、生涯現役コースは、1プレーヤーとして成果を上げることが期待される。「シニア自身からも周囲からも、『役割が分かりにくい』という声がありました。周囲からすると、『何をどこまでお願いしてよいか分からない』、本人は『どこまで口出ししてよいか分からない』と、お互いに遠慮や戸惑いがありましたので、役割を明確化しました」
60歳到達者全体に占める割合は、理事10%、メンターコース15%、生涯現役コース75%程度だという。