第5回 情熱と伝説の家政婦・タサン志麻さん 心、会話弾む「家族の食卓」を夢見て タサン志麻氏 フリーランス家政婦|寺田佳子氏 インストラクショナルデザイナー
人は学べる。いくつになっても、どんな職業でも。
学びによって成長を遂げる人々の軌跡と奇跡を探ります。
予約が取れない家政婦として有名な、タスカジのタサン志麻さん。
フランスで修業し、フレンチ・レストランに長年勤めた一流シェフです。
そんな彼女が、いったいなぜ華やかなレストランの厨房を去り、
フリーランスとして、一般家庭の台所に立つようになったのでしょう?
東京の下町にあるご自宅にお邪魔し、お話を伺いました。
01 一流シェフがつくる普段の料理
「ごめんくださいませぇ~!」
東京の下町にある、昭和の風情漂う一軒家の玄関先で緊張気味に叫んでいるのは……、私である。そして、
「はぁ~い、どうぞ~」
柔らかな笑顔で迎えてくれたのが、あの「伝説の家政婦」、タサン志麻さん、である。
なにしろ、お願いしたくても予約のとれない家政婦さんである。わずか3時間で1週間分の「作り置き料理」をちゃちゃっと仕上げる“仕事人”である。「三ツ星レストラン」の本格フレンチから「おふくろの味」のお惣菜まで、なんと600種以上のレパートリーをもち、訪問先の家族の好みや体調や行事に合わせて、バラエティに富んだメニューで驚かせてくれる“一流シェフ”である。
さらに、家事代行マッチングサービス会社のサイトでは「5点満点中4.99」という高評価を保ち、レシピ本を次々出版し、テレビの密着取材を受け、料理教室を開けばファンが押し寄せる“話題の人”でもある。
さぞ忙しい毎日に違いないと思うのだが、フランス人の夫と1歳半の息子、そして双子の猫と暮らすその家の、なんとも居心地のいい雰囲気そのままに、「家族が笑顔になれるようにと料理をつくり、料理を囲む幸せなひとときの大切さについて本を書ける“今”が、とっても幸せです」
とあくまで自然体の人なのである。
それにしても、あのタフな仕事ぶりと斬新なアイデアは、いったいどのように育まれたものなのだろう?
02 フランスが教えてくれたこと
志麻さんは山口県出身。父は公務員、母は看護師という共働き家庭で育った。物心つくころから、料理好きの母親に包丁を持たされた志麻さんは、すっかり料理に夢中になった。
「ですから子どものころから調理師の学校に行くって決めていました」
好きなことには、とことんのめり込む。「いいな」と思ったら臆せず挑戦する。
志麻さんの類まれな行動力は、幼い娘に包丁を握らせる母親の勇気によって培われたものかもしれない。