人材教育最前線 プロフェッショナル編 イノベーションを生む組織力を豊かな感性を持つ人材でつくる
「どんなことにも問題意識を持てる感性が大切だ」と語るのは、古河電気工業の人財育成担当部長、上原正光氏だ。電力や情報通信分野を中心に光ファイバケーブルや半導体光デバイスなどの製造開発を手掛ける同社。素材の力と培ってきたノウハウを融合し、新たな製品を生み出すための自立心やチャレンジ精神を持った人材を求めているが、「気づきのセンスがなければ進化はできない」と言う。そんな個々の感性とスキルを高めるために上原氏が打ち出す教育プログラムは、全て「組織力強化」という一本の軸でつながっていた。
海外関連業務で学んだ多様性の理解と尊重
人財育成担当部長の上原正光氏が古河電気工業に入社したのは1987年。工学部出身だった上原氏は光・通信事業部に配属され、千葉の工場で光ファイバの製造に携わった。入社から5年で三重の新工場の設計、立ち上げ、さらには千葉の新工場の立ち上げ計画も担当。日本の通信幹線網における光ファイバへの飛躍的な移行を支えた。1998年、本社の海外技術部へと異動すると、海外顧客に製品仕様の説明やアフターフォローを行う海外拡販を担当。中近東や東南アジア、インド、中国を中心に、1週間に2、3回の海外出張をこなすこともあった。その中で、文化の違いを感じる出来事も多かったという。「トランジットでパリのド・ゴール空港にいた時のことです。私の前に突然、赤いカーペットが敷かれ、人々が私のほうを向いて集まりました。何が起こったのかと驚いていると、跪いてお祈りを始めたのです。私がいた場所がたまたまメッカの方角だったのですが、彼らは私に『どいてくれ』とも何も言わずに、淡々と私に向かって祈り始めました。その時、“彼らには彼らの信仰がある。異文化理解とは、相手を思いやって尊重することが大事なんだ”と感じました。これが私の多様性理解の始まりです」さまざまな文化の中でお互いを認め合えばいいことを知り、人生観が大きく変えられた時期だったという。2002年、海外技術部から資材部へ異動するとグループ各社の共同購買プロジェクトに携わり、海外企業との交渉役を務め、さらにその後、営業企画部で海外の販売会社の売上や予算等の企画管理を担当した。「現地法人の社長は日本人ですが、現地の従業員とも協力しながら仕事をする必要がありました。いかに彼らにやる気を持ってもらうかや、仕事のすみ分けの仕方などと同時に、一緒になってやっていくことの大切さを学んだ時期でもあります」グローバルの多様性とモチベートの重要性。こうした海外での経験が今日の上原氏の人材育成や教育に対する考え方のベースとなった。
組織力強化に不可欠な豊かな「感性」
2008年、人事総務部に配属され、教育担当となった上原氏。以降、さまざまな教育施策に取り組んできたが、常にキーワードとして持ち続けてきたのが、「組織力強化」である。「私はよく飛行機に乗りますが、飛行機の設計も操縦もできません。パイロットは飛行機を操縦できますが、飛行機に使われている電線はつくれない。でも古河電工の現場の社員は電線のつくり方を知っている。もちろん、その電線がなければ飛行機は飛びません。つまりパイロットがいなくても、電線をつくる人がいなくても飛行機は飛ばない。それでいいんです。協働して、それぞれが主体的に動くからこそ飛行機が飛ぶのです。何もかも1人で全部を知る必要はありません」