OPINION 「ティール組織」から考える組織 ティール組織は、目指してはいけない!? 心理的安全性や、組織の存在目的を 探求するプロセスこそ重要 嘉村賢州氏 場とつながりラボhome\'s vi 代表理事/東京工業大学 リーダーシップ教育院 特任准教授
2018年1月に同名書籍の日本語版が発売され、反響を呼んでいる『ティール組織』。
ティール組織とはどんな組織であり、そこには組織運営におけるどんなヒントが隠れているのだろうか。
日本におけるティール組織の第一人者である嘉村賢州氏に、エッセンスを聞いた。
「ティール組織」反響の背景
書籍『ティール組織』が世界中で発売されているが、そのなかでも日本においては圧倒的に売れているという。その背景を、日本語版の解説を手がけた嘉村賢州氏はこう分析する。
「働き方改革の議論が盛り上がった時期と日本語版の発売が重なったことは大きいと思います。『人生の大半を過ごす職場はどのような場であるべきか』『自分は本当は何をしたいのか』等、組織や自身の在り方を考える方が多いタイミングで、『人間とは?』というところからアプローチしているティール組織の世界観がフィットした、ということではないでしょうか。特に、今までの組織論が当然のものとしていた上司と部下の関係や指示命令といったものを問い直したのが、ティール組織のセンセーショナルな点です」(嘉村氏、以下同)
ティール組織とは何か
そもそもティール組織とは、ひと言でいえば、「上下関係なく、全員が自由に意思決定しながら動く、まったく新しい組織」であるという。理想的だが実現が難しそうな組織の在り方に見えるが、嘉村氏は、『ティール組織』の著者フレデリック・ラルー氏がこの概念を見いだすに至った経緯を、順を追って解説する。
「ラルー氏はマッキンゼーを退社後、エグゼクティブコーチをしていたのですが、そこで見たのは政治的な駆け引きに消耗しきっている社長や、職場に満足していない社員たち、そしてその不満足度を表す調査結果でした。そんな、社長も社員も幸せではない会社・社会はどうなのかという違和感から、ラルー氏は理想の組織を探求する旅に出たのです」
探求を進めていくなかで、ラルー氏はまったく新しい組織モデルが出現しつつあることに気づき、それを2つのアプローチで整理したという。1つが「歴史」、もう1つが「3つのブレークスルー」だ。
歴史から見るティール組織
歴史を振り返ると、人類の誕生以来、組織モデルは、その時代に優勢だった世界観と意識に結びついていることがわかる。つまり、人間の意識が新しい発達段階に移行すると、新たな組織モデルが生まれているのである。ラルー氏はこれらの進化を思想家のケン・ウィルバーにならい、名前と色をつけて呼んだ。
「およそ1万年前に数千人単位の社会が現れ、組織の最初の形態である『レッド組織』が生まれます。レッド組織は、強力な上下関係をもとにしており、必要ならば暴力を行使しました。現代でもギャングやマフィアなどにまだ見られる組織形態です。
その後、国家と文明の時代に登場したのが『アンバー(琥珀)組織』です。アンバー組織は、階層的なピラミッド組織。現在でも宗教団体や軍隊などに残っています。アンバー組織はレッド組織のもつ不安定な衝動をコントロールすることを学びましたが、より世界が複雑化し、競争が激化するなかで、変化を認めないアンバー組織では対応が難しくなってきました。そこに現れたのが『オレンジ組織』です」
オレンジ組織は効率を高めてイノベーションを起こし、成果を上げるという現代主流となっている組織モデルだ。オレンジ組織の最大の発明は実力主義といわれているように、アンバー組織までは身分は固定化されていたが、オレンジ組織ではだれもがトップにのぼれるようになった。一人ひとりが必死に自分の能力を磨くようになり、生産性は飛躍的に上がった。一方で、人生の唯一の成功がトップに就くことになってしまい、空虚さを感じる人も増えてきた。そんななかで生まれたのが「グリーン組織」である。