OPINION2 個人の情熱や主体性の解放が鍵 人事=人材開発=組織開発の時代に 効果的な変革アプローチとは
近年、仕事や学習の分野で大きなパラダイム変化が起きてきた―。
そう語るのは、人事・人材開発分野の世界最大規模組織ATD(タレント開発協会)の日本支部で組織開発(OD)委員長を務める高間邦男氏だ。
長年、この分野で実践し、トレンドを押さえ続けてきた氏が、組織開発やラーニングの概念の変化やその背景を整理。
そうした変化の時代にも効果を発揮する組織開発のアプローチについて語る。
近年のパラダイムシフト
ATD のカンファレンス「ATD ICE」に1991年から参加しているが、この数年は特に、人事、人材開発、組織開発の区分がなくなってきており、どのトレンドを話そうとしても同じ話になる。その主な理由は、昨今の人事部門の仕事がパフォーマンスの最大化であること。そして、その最大化のためには組織文化と個々人のマインドセットの変化が必須条件となり、人材開発でも組織文化を扱わざるを得ないからである。ATDのトレンドと交え、以下に説明していく。
背景には、図1のようなパラダイムシフトがある。
まず、組織の形が、ヒエラルキー型からネットワーク型になった。働き方改革でテレワーク化などが進み、社員は職場にいないという環境も珍しくなくなり、従来型のマネジメントが効かなくなったのである。
仕事の仕方や施策の打ち方も、以前は予測と計画のうえコントロールができたが“、VUCA”※1と形容される時代にはアジャイル―プロトタイプをつくり、どんどん変化させていく方法に移りつつある。そして、社内の価値観も、同一性から多様性へ、会社中心から個人中心へと変化し、“やらされる側”と“やる側”が対等でないと何事も進みにくくなった。外資系企業では人事評価の仕方も変わり、段階づけをやめ、頻繁なフィードバックを行う動きが出てきた。そして、従来は仕事と学習は別ものとして捉えられてきたが、仕事=学習と捉えられるようになった。
こうした背景を受け、企業等で行われる組織開発の形も、あるべき姿とのギャップを埋めるものから、環境との相互作用により、組織が自ら学習・成長していく力やそのためのプロセスを習得できるようにするものへと変化してきた(図2)。組織のラーニングカルチャーを育てる働きかけだ。
※1 Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧さ)の頭文字。
ラーニングカルチャーとシステム
ラーニングという観点でいえば、企業での研修を捉える軸は、昔は、「放置or科学的管理法」「講師任せor科学的デザイン」「インフォーマルorフォーマル」「70:20:10」(経験学習:ソーシャルラーニング:集合研修)等々で語られていた。
他方、直近のATDでの議論では、これら全てを包含するラーニングシステムやプラットフォームを構築することの意義が語られている。バイトサイズなど、切片的に学習ができるコンテンツを用意することで、職場で効率的な学習ができるようにすることや、人と人との関係性を高めることなどを通じて、学習が起こりやすくなる環境づくりが必要だといわれるようになったのである。
個人の内面から組織を変える
なお、組織を変えていく際の出発点として、近年は、金銭的報酬ではモチベートされないミレニアル世代※2の影響もあり、個人の情熱や目的意識にどうやって灯をつけるかに焦点が当たっている。
組織には、ビジョンや目標や課題、その下に、実際に産み出される製品や技術、システムや制度などがあるわけだが、図3の一番下の部分―個人の思い込みや信念、恐れや不安、未来への希望といった、精神的な側面にアプローチする方法が取られるようになってきているのである。