J.H.倶楽部

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Learning Design 2020年11月刊

特集│OPINION 3 村山 昇氏  いかなる仕事も1人ではできない  個人と組織のアウトプット力を高める、 価値創造「連鎖」とは?

テレワークに起因する“ 見えない不安” から、より高い成果を求める企業が増えている。
過剰な成果主義に警鐘を鳴らし、個人の仕事観や組織文化醸成の重要性を説くのが組織・人事コンサルタントの村山昇氏だ。詳しい話を伺った。

村山 昇(むらやま のぼる)氏 キャリア・ポートレート コンサルティング 代表

キャリア・ポートレート コンサルティング代表。組織・人事コンサルタント。概念工作家。管理職研修、キャリア開発研修などのジャンルで企業内研修を行う。
「働くこと・仕事」の本質をつかむ哲学的なアプローチを志向している。
慶應義塾大学経済学部卒業、イリノイ工科大学大学院「Institute of Design」(米・シカゴ)研究員、一橋大学大学院商学研究科にてMBA取得。
著書は『スキルぺディア』『働き方の哲学』(ともにディスカヴァー・トゥエンティワン)ほか多数。

[取材・文]=平林謙治 [写真]=村山 昇氏提供

新型コロナウイルス感染症さえなければ、この夏、アスリートたちはメダルや世界新記録といった輝かしい「成果」を生み出し、人々を驚かせ、楽しませたに違いない。“幻”の2020年東京オリンピック・パラリンピックのことである。

「アスリートが我々にもたらす価値は、勝利や記録といった目に見える『成果』だけではありません。これは、仕事におけるアウトプットを考えるうえでも重要な視点です」と、組織・人事コンサルタントの村山昇氏は語る。村山氏は本題に入る前にアウトプットとは何かを説明する補助線として、1人のアスリートの事例を挙げた。日本が誇る20歳の天才スイマー、池江璃花子選手である。

「アウトプット=成果」だけではない

女子競泳界のエースとして、金メダル候補だった池江選手は昨年2月に白血病を発症。約10カ月に及ぶ療養生活を余儀なくされてしまった。

「日本記録を次々と更新し、メダルの期待を一身に浴びてきた一昨年までの活躍を思えば、競技者としての池江選手の『成果』は大きくダウンしたと言わざるを得ません。順位や記録どころか、泳ぐことすらできなかったわけですから。

しかし、周知のとおり、彼女は突然の悲運にもめげず、過酷な治療やリハビリを耐え抜いて復帰への道を歩み始めました。競技者としての『成果』ではなく、1人の人間の生き様として刮目するとき、彼女の戦う姿は立派な『アウトプット』だと言えるのではないでしょうか」(村山氏、以下同)

実際、闘病中のショートヘア姿を自らSNS で公開するなど、ポジティブなメッセージを発信し続ける池江選手の姿は人々の共感を呼び、コロナ禍で疲弊した世の中に勇気や感動をもたらした。

「それを単に『成果』とよぶのは、私は申し訳ない気がしてなりません。成果というよりも、彼女の生きる表現。人々にプラスの影響を及ぼしているという意味で、極めて優れたアウトプットなのですから。『アウトプット=成果』と狭くとらえられると、競技者としての成績がないに等しい現在の池江選手は何者でもなくなってしまいます」

アウトプットとは、その人の存在意義にもかかわってくるものなのだ。

価値創造は「連鎖」するもの

あらためて仕事におけるアウトプットとは何か。仕事におけるアウトプットとは、「その人が活動後に生み出したモノ・コトの価値」であると、村山氏は定義する。

私たちは日々、仕事として様々なモノを作ったり、コトを行ったりしている。そうした意志的な活動を行った後は、行う前と比べて何かが変わり、何かしらの価値が生まれたり増えたりしているはずだ。その価値創造の流れをモデル化したのが図1の「INPUT〈投入〉→ THROUGHPUT〈価値創造回路〉→OUTPUT〈産出〉」である。

たとえば、椅子職人の仕事では、原料となる木材がインプット(投入)されると、それが職人の「価値創造回路」の中で処理・加工され、椅子としてアウトプット(産出)される。

「価値創造としての仕事は決して自分独りで閉じてできるものではありません」と村山氏は言う。

「原料の木材は誰かが木を切り出して製材したものですし、工作機械も誰かが製造・販売してくれたものです。また、元気で働くための食事は家族が用意してくれたものかもしれない。

あらゆる仕事は、他者や環境がアウトプットしてくれたものを自分のインプットとして取り込むところから始まるのです。そして、自分のアウトプットも誰かのインプットになる。ある職人が作った椅子が、他の職人のインスピレーションを刺激することもあれば、椅子を購入した小説家が、その椅子に座って傑作小説を書くかもしれません。このように、価値創造は『連鎖』していくのです」

池江選手の“生き様”の例で示したように、アウトプットとは目に見える具体的な価値にとどまらない。ある職人が作った椅子に別の職人が触発されるのは、デザインや機能の工夫といった目に見えるアウトプットだけでなく、そこに込めた職人の想いや精神性、人間性が外に表れるからだろう。優れた芸術作品であれば、作者の執念や美意識がいやでも宿る。村山氏は、歴史的な建造物を支える宮大工の仕事も同じであると言う。

「奈良・法隆寺を修繕のために解体すると、1,000年前の匠の仕事が姿を現し、現代の大工にインプットとして伝わっていきます。その技術の高さもさることながら、名もない職人の魂や心意気という無形のアウトプットに触れて、自然と背筋が伸びるのだそうです」

一般のビジネスパーソンでも、アウトプットとして作成した企画書や報告書の行間から、新規事業への意気込みや、あるいは逆に手抜き具合が知らずに滲み出ることは珍しくない。顧客に対するホスピタリティ、会議における発言の質、チームの仲間へのさりげない気配り―身の回りには、目に見えず、数字にも表れない誰かのアウトプットが溢れているのだ。

定量化できない価値も認める

アウトプットやそこに込められた想いは連鎖していく。

では、「優れたアウトプット」とはどのようなものなのだろうか。もう一度、図1に注目してほしい。

活動前に取り込むモノ・コトの価値をv(スモールブイ)、活動後に生み出されたモノ・コトの価値をV(ラージブイ)で示した。村山氏は、産出した価値「V-v」が大きいことが、優れたアウトプットの基本であると指摘する。

「『V-v』が大きいアウトプットとは、定量化できるものに限られるので、ビジネスでいうと、売り上げや客数の増加、歩留まり率や離職率の改善といった定量的な価値がこれに当てはまります。世の中でいう『成果』のニュアンスに近いアウトプットと言えるでしょう」

企業を維持、成長させるためには当然、利益につながる定量的な価値の増大が優先され、個人も組織も「V-v」が大きいアウトプットを求められることになる。ただし、優れたアウトプットの条件はそれだけではない。

「定量化できる成果しか優れたアウトプットとして認めないということでは、職場がギスギスして、働く人々のメンタルも疲弊してしまいます。それ以外の目に見えない、定量化できない価値でも優れたアウトプットとしてきちんと評価する配慮が必要だと思います」

アウトプットは必ずしも具体的な成果につながる必要はなく、「他者や社会に大きな影響をもたらすアウトプット」や「独創性の強いアウトプット」など、より広い概念で語られるべきだと村山氏は強調する。生み出された価値の量的な大きさだけを求めるのではなく、その質にも目を向けなければならない。

「能力×意志×身体」から成る価値創造回路

価値創造の流れ(図1)のなかで、村山氏が人材育成の観点から特に重視するのは、中間に位置する「価値創造回路」である。

「優れたアウトプットを生み出すためには、豊かな価値創造回路が鍵になります。価値創造回路は『能力×意志×身体』による働きなので、この3つの要素に優れる人ほどアウトプット力が高いと考えていいでしょう」

まず「能力」について見てみよう。図2-Aのように、価値創造回路のなかでは、上流から下流まで、様々な能力が組み合わさり働いている。たとえば、職人が何かモノを作る場合、原材料になる素材をインプットしたら、まずその素材を「みる」「しる」とともに、顧客の要望を「きく」なども行う。次に上流で取り入れたモノやコトについて「考える」「学ぶ」「合わせる」といった中流過程があり、最後に「決める」「つくる」「伝える」などの下流過程を経て回路から産出されたものが、アウトプットとして価値を生み出すのだ。

ただし、上流・中流・下流といっても、回路のなかで様々な能力が働く流れは単純な一方通行ではない。「複雑に行ったり来たりするのが実態」だと、村山氏は図2-Bを示しながら説明する。

「優れたモノづくりを行うためには、下流過程の『つくる』能力が優れているだけでは不十分で、よく『しる』、よく『みる』、よく『考える』を組み合わせることが必要です。そして、一度『つくる』を経て、また『きく』や『学ぶ』に戻るなどを繰り返しながら、こうした中核能力を統合的に使って再び、『つくる』にたどりつくというイメージです」

アウトプットに深みを与える仕事「観」

村山氏は図2-Cのように価値創造回路の流れには平面だけでなく、タテ方向の深みや奥行きがあり、立体的であるとも考えている。

「同じ能力でも『浅く』発揮される場合と『深く』発揮される場合があるということです。たとえば、私たちが何かをみるというとき、視界に入るものをただ『見る』場合もあれば、目に映る事象の奥に何かしらの原理や本質を『観る』こともあります。リンゴが木から落ちるのを、普通の人々はただ『見た』だけですが、ニュートンはそこに万有引力を『観た』わけです。『聞く』と『聴く』や『作る』と『創る』も能力発揮の“深度”が違います」

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