今週の“読まぬは損”

第207回『未来を見通すビジネス教養 日本のすごい先端科学技術』

菊池健司氏 日本能率協会総合研究所 MDB事業本部 エグゼクティブフェロー

菊池健司氏

読書の鬼・菊池健司氏イチオシ 今週の"読まぬは損"
1日1冊の読書を30年以上続けているというマーケティング・データ・バンク(MDB)の菊池健司氏。 「これからの人事・人材開発担当者はビジネスのトレンドを把握しておくべき」と考える菊池氏が、読者の皆様にお勧めしたい書籍を紹介します。

技術は確実に進化していく

私は、国内外の様々な情報を結びつけながら、未来に起こり得る変化や顧客の潜在的な課題を想起し、顧客の新規事業創出、新用途探索、経営戦略の策定を支援してきた。

この仕事は実に面白く、これからも取り組んでいきたいと考えているのだが、とりわけ大切にしているのが、「未来の技術」を学ぶことである。

科学技術はそれこそ秒針秒歩で進化しており、世の中を大きく変えていく。
ChatGPTが登場して、まだ3年ほどしか経過していないのに、生成AIを使いこなせないと、もう生き残っていけないという空気感が既に醸成されている。

2040年には、労働力不足や食不足が引き続き課題となっているという予測データがあり、なるほどと思うのだが、この頃にはもしかしたら今では想像がつかないレベルのロボティクス化が進み、それこそ名作マンガ『ドラゴンボール』で登場する仙豆のような食材も登場するかもしれない。

技術の進化は、確実に人々の仕事や生活環境を変化させていく。

人事部門の皆様はもちろん、あらゆる職種で活躍しているビジネスパーソンが技術の進化により目を向けていくと、「未来の絵姿」が想像しやすくなると思う。

2025年10月に誕生した、高市早苗内閣総理大臣が掲げる日本成長戦略会議が注視する「技術領域」には注目しておかれることをお勧めしておく。
○日本成長戦略本部(第1回)2025年11月4日

さて、技術領域への関心がさほど高くない方にも今回ご紹介する1冊はぜひお読みいただきたい。著者はテレビ東京報道局ディレクターである橋本幸治氏。

書籍のタイトルは、『未来を見通すビジネス教養 日本のすごい先端科学技術』である。

橋本氏はテレ東BIZの大人気チャンネル「橋本幸治の理系通信」でもよく知られている。
○橋本幸治の理系通信

本書では、理系通信を通じて、科学技術の魅力を伝える取り組みをされている橋本氏が注目している20の厳選技術がズラリと並んでいる。目次を見ているだけでも楽しい。

本書の構成

本書は、終章を含め全5章で展開される。

各章巻末にはコラムも掲載されており、私たちの理解を助けてくれる。
それぞれの技術について、写真やイラストも交えながら、10ページ弱で解説されており、
読みやすさという点でもさすがだと感じる。

第1章:驚きはすぐそこに! 身近にある科学技術

本章では、4つの技術が紹介されている。
01で紹介されているのは「指先から脳を書き換える、次世代スキルアップ技術(ソニーコンピュータサイエンス研究所)」。
ロボットに身を委ねるだけで、自身のスキルが向上する――。
ピアノの演奏スキルが向上した事例が紹介されているのだが、この動きを様々な産業の生産現場やメンテナンス現場に応用するとどういう未来につながるのだろうとつい想像してしまった。

第2章:ニッポンの底力! 産業維新を牽引する科学技術

本章では、7つの技術が紹介されている。
11で紹介されているのは、光量子コンピュータ技術(OptQC社)。
国策としても成長を目指す光量子コンピュータ分野におけるスタートアップ企業の目指す世界感を本項で学ぶことができる。
ニッポンの底力という章タイトルの通り、日本が誇る有力企業や日本のAI界を牽引する東大松尾研究室の取り組みなど、興味が尽きない。

第3章:地球と人類を救え! 課題に挑む科学技術

本章では、「水害対策コンクリート」「ナノダイヤモンドによるCO2削減」「海水淡水化技術」、この3つの技術が紹介されている。
本章をじっくり読んでいると、厳しい課題に向き合う日本企業の矜持を感じるのは私だけだろうか。

第4章:歴史に名を刻むか! 壮大な夢を追う科学技術

本章では、6つの未来の夢につながる技術が紹介されている。
とりわけ17で登場する「100億年で1秒も狂わない」光格子時計(価格5億円の時計!)のエピソードなど、いずれも「おっ、凄い」と思わず声を挙げてしまう技術の数々なのだが、知らなかった新たな用語も含めて、実に知的好奇心が刺激される。

20で登場する窒素社会の話題を読み進めていくと、なぜ日本が国策として「アンモニア」を重視しているのかがよくわかる。

「技術」を学ぶことは未来を考えること、そして最高のビジネス教養につながる

本書は、以下のような項目を意識しながら読み進めた。

  1. 科学技術の深い知見を有する橋本氏の注目技術とその背景を学ぶ
  2. なぜ橋本氏はこの技術を選ばれたのだろうと想像してみる(もちろん理系通信での最新の発信にも注目しながら…)
  3. 登場する企業の方や学識者の方の取り組みについて、本書をトリガー資料として、さらに調べてみる
  4. 本書で紹介されている技術が未来をどう変えていくのかを自分なりに洞察してみる

「日本の未来は、そして世界の未来は、私たちの科学技術への尽きぬ関心と期待の先にある」
本書の終章のコメントである。

私自身は典型的な文系人材である。
そして今の時代を生きていて、世界や日本で活躍している経営者や投資家、そして起業家の皆様は、理系・科学技術の知見を有する方が多いと肌で感じている。

「未来の注目技術は○○と○○ですよ」と研修や講義等で顧客に伝えている自分がいるのだが、本書を読んでいて、改めて「世の中は広い、そして深い」と感じさせられた次第である。

もし技術の進化によって、過去に戻れる未来が訪れたとしたら、私は「理系」の勉強を徹底的にやってみたい(やり直してみたい)と密かに企んでいる。
それが叶わない夢だとしても、最新技術については、分野を限定することなく、これからも広く学んでいこうと心に誓った。

この素敵な1冊との出会いに感謝である。もちろん、本連載読者の皆様にも、ぜひお目通しいただきたい。

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