
菊池健司氏
- 読書の鬼・菊池健司氏イチオシ 今週の"読まぬは損"
- 1日1冊の読書を30年以上続けているというマーケティング・データ・バンク(MDB)の菊池健司氏。 「これからの人事・人材開発担当者はビジネスのトレンドを把握しておくべき」と考える菊池氏が、読者の皆様にお勧めしたい書籍を紹介します。
やはり知っておきたい「これから起こること」
2024年、日本では石破政権が誕生した。
石破首相は、2025年1月の施政方針演説において、下記のように想いを述べている。
「かつて国家が主導した『強い日本』、企業が主導した『豊かな日本』、加えてこれからは一人ひとりが主導する『楽しい日本』を目指していきたい。
『楽しい日本』とは、すべての人が安心と安全を感じ、自分の夢に挑戦し、『今日より明日はよくなる』と実感できる。多様な価値観を持つ一人ひとりが、互いに尊重し合い、自己実現を図っていける。そうした活力ある国家である。」
確かに、そんな『楽しい日本』になっていくと良いと思う。
世界全体に不透明感というか、これから何が起こっても不思議ではないという空気が漂うなかで、人間の喜怒哀楽の感情のなかでも、人生において「楽」を感じることの重要性を切に感じている。
施政方針演説では、「楽しい日本」を実現するための政策の核心に「地方創生2・0」を掲げ、「令和の日本列島改造」として強力に進める、との言葉もあった。
東京都以外の全道府県の人口は今後減少していくというのが、確実に訪れるとされている1つの未来である。
地方においても、トップのリーダーシップのもと、若い方の感性も取り入れながら、ユニークな政策を推進している自治体も出てきている。
今の環境下において、子育て政策の推進等々の施策を通じて、人口を増加させている自治体には注目しておくとよい。
今後の国・地方のそれぞれの政策には注目していきたいと考えている。
2025年に入って改めて思うのだが、私たちビジネスパーソンは、やはり人口減少のみならず、未来に起こる可能性の高い事象はぜひ押さえておきたい。
もちろん、自分のキャリアの未来、自社の未来にも大いに影響する。
そこで今回ご紹介したい本は、『ほんとうの日本経済 データが示す「これから起こること」』である。
本書は、リクルートワークス研究所研究員・アナリストである坂本貴志氏が執筆。
個人的にもリクルートワークス研究所の方の著書は常に注目しているが、本書もビジネスパーソンなら絶対に押さえておきたい論考が存分に展開される。
本書の構成
本書は、全3部で構成されている。
第1部: 人口減少経済「10の変化」
ここでは、まず「あらゆる変数が複雑に影響し合う経済現象を正確に予測することは難しい」という前提において、もっとも精度が高く、影響力が大きい人口のデータをもとにしたこれからの日本経済の「10の変化」が紹介されている。
変化1:人口減少局面に入った日本経済
変化2:生産性は堅調も、経済成長率は低迷
変化3:需要不足から供給制約へ
変化4:正規化が進む若年労働市場
変化5:賃金は上がり始めている
変化6:急速に減少する労働時間
変化7:労働参加率は主要国で最高水準に
変化8 膨張する医療・介護産業
変化9 能力増強のための投資から省人化投資へ
変化10 人件費高騰が引き起こすインフレーション
こうして改めて日本の未来の人口トレンドや世界との比較データをまじまじと見ていくと、様々なことに気づかされる。
日本では2040年(15年後)には、85歳以上の超高齢者が15%を超える。そうなるとどのような社会像になっているのか。
今の高齢者と15年後の高齢者はどう異なるのか。
「週休3日制」が普及した場合の労働成果を各社はどう担保していくのか。
医療・介護産業が日本最大の産業になる未来には、どのような変化が起こるのか――。
第2部:機械化と自動化――少ない人手で効率よく生産するために
ここでは、「建設」「運輸」「販売」「接客・調理」「医療」「介護」の6分野を事例として、これまで生産性の向上が難しいとされていた領域について、「変化」が紹介されている。
昨年も、そして今も話題となっている「人手不足」。2024年問題というキーワードは多くの方が耳にされているであろう。
“「人手不足」×「機械化・自動化」≧世の中の需要”
・こうした状況を生み出すためには何が必要なのか
・それはいつ頃実現していくのか
・いわゆる”需要と供給の時差”をAIをはじめとしたテクノロジーがどう解決していくのか
こうしたことを考えるためのヒントがこのパートでは存分に展開されている。
第3部:人口減少経済「8つの未来予測」
このパートでは、タイトル通り、8つの未来予測に関する考察が描かれている。
いずれも注目していただきたい。
個人的に特に注目したのは、「予想6:生産性が低い企業が市場から退出を迫られ、合従連衡が活発化する」というテーマである。
「これからの人口減少時代において、現在存在している企業のすべてが横並びで生き残っていくという未来像を展望することは不可能」
私もそう思う。
よく企業研修においても参加者にお伝えしているのだが、「垣根を超えた業界再編」、そして「企業規模を問わないM&Aの活性化」は、実は確実な未来だと睨んでいる。
人口減少局面における社会選択、の章においては、ここまでの書の流れを振り返りながら。
私たちが向き合っていかなくてはならない7つの論点が提起されている。
「外国人労働者の受け入れ」をはじめとして重要なテーマばかりである。
受け止めなくてはならない未来を俯瞰して学べる1冊
本書は、以下のような項目を意識しながら読み進めた。
- 坂本氏が日本経済の未来をどう捉えているかを俯瞰的に学ぶ
- どのようなデータやテクノロジーに着目しているかを学ぶ
- 逆に日本ならではのビジネスチャンスを探るための参考書とさせていただく
- 最後のパートで登場する7つの論点について、自分なりの考えをまとめる
本書を読むことで、企業経営者やリーダー層の方々(もちろん公的機関のトップ層の方も)、そして人事部門担当者の方が知っておかなくてはならない「未来」を窺い知ることができる。
2025年4月から新たな中期経営計画が走り出すため、今精査しているという方も多いだろう。
本書で書かれている内容をご確認いただき、何か抜けてしまっている観点がないかどうか、今一度チェックされることをお勧めしておく。
同じ、リクルートワークス研究所の古屋星斗氏が書かれた『「働き手不足1100万人」の衝撃』(プレジデント社/2024年1月)と併せてお読みいただいてはいかがだろう。
本書で登場する課題を超える過程、超えた先に「楽しい日本」があれば、と願う。
必読本として、広く皆様にお勧めしておきたい。