HR TREND KEYWORD 2026 エンゲージメント|上司選択制度 苦手なことも開示できる風土が可能にした「部下が上司を選択する」仕組み 田中真一氏 さくら構造 代表取締役
田中真一氏
部下が一緒に働きたい上司を選択する「上司選択制度」を設けるのは、札幌に本社を構える構造設計事務所のさくら構造。制度の運用により、社員の主体性の向上や離職の抑制など様々な効果が見られているという。その仕組みや運用方法、運用を可能にする同社の風土について、代表取締役の田中真一氏に聞いた。
[取材・文]=たなべ やすこ [写真]=さくら構造提供
上司との相性で配属を選べる年に一度の希望調査
さくら構造は、札幌にある構造設計を専門とする企業だ。およそ150名の社員のうち100名は、オフィスビルやマンションなど建物の基礎や骨格を設計するエンジニアである。
同社は2020年より、一般社員が上司を選ぶ「上司選択制度」を運用している。構造設計部門に所属する2年目以上の社員は、原則として希望の上司のチームで働けるというものだ。配属といえば、通常は組織の都合が優先されることがほとんどであり、若者たちは自分で選べない不満を「上司ガチャ」「配属ガチャ」という皮肉で表現する。同社ではなぜ、部下が上司を選択できる制度をつくったのか。
「きっかけは社員の離職でした。入社4年目くらいの若手社員が、『辞めたい』と言ってきたんです。彼はとても優秀だし、これまで目立つ問題も起こしたことがない。まさに寝耳に水だったので、じっくりと理由を聞いたら、上司とウマが合わないということでした。さらに後日、退職して構造設計とは別の仕事に就いたのですが、体質が合わず数カ月で辞めてしまったということも聞きました。貴重な人材を失ったことも惜しかったですが、“上司との相性”という理由で本人のキャリアを翻弄させてしまったことに、率直に申し訳ないと思ったのです。同じことを繰り返さないためには、部下が好きな上司のもとで働ける仕組みをつくるのがベストだと考えました」(代表取締役の田中真一氏、以下同)
制度の詳細を紹介する前に、組織の構造を整理しておきたい。同社の構造設計部門には7つの設計室がある。社員はいずれかの設計室に所属し、クライアントのプロジェクトを担当する。
次年度の所属を決める調査は毎年3月に行われ、希望する上司、すなわち設計室を第二希望まで回答する。次年度も今と同じ設計室に継続して所属したい場合も、その旨を記載する必要がある。調査では希望理由も答えるが、「今の室長の、××のやり方についていけない」といったネガティブな内容でも率直に書くのがポイントだ。
「毎年8割強の社員が、希望する配属先を具体的に回答しています。会社に一任すると答えた他の社員とあわせ、バランスを見ながら原則として希望の設計室に配属します」
80P超のマニュアルで上司のキャラクターを紹介
そうは言っても、実際に上司を選ぶとなると難しい。たとえ自分と相性の良い上司に見えたとしても、所属しなければわからないことが大半だろう。
そこで社員が参考にするのが『室長活用マニュアル』である。80ページ超の大作で、上司選択制度の狙い、および田中氏を含めた管理職全員の特徴を詳細に解説している。
具体的には、各室長の仕事ぶりを並行比較できる「まとめ」と、室長の特徴を文章でまとめた「活用マニュアル」がある(図)。「まとめ」は、あらかじめ定義されている室長の「業務内容9箇条」に沿った各項目について、○(期待してよい)、△(普通)、×(期待してはいけない)の3段階で評価している。また、「活用マニュアル」では、業務内容9箇条の観点ごとに、室長のここがスゴイ、ここがイマイチ、どう活用するか(つき合い方)が、1人当たり10ページ前後にわたりみっちりと記載されている。

