第1回 人的資本経営におけるダイバーシティ戦略 島貫智行氏 中央大学大学院 戦略経営研究科 教授
島貫智行氏
「人事戦略や人事施策の構想のためには、それらのベースにあるコンセプトの理解が欠かせません」――。中央大学大学院の島貫智行教授は、そう語る。組織と人材のマネジメントにおける基本的な考え方を理解していれば、自社の人事施策を再点検する際も、先進企業の人事戦略を読み解く際も有益になる。そこで本連載では、今日の人事戦略において重要なコンセプトについて、全4回にわたり島貫教授に寄稿いただく。
第1回は、人的資本経営におけるダイバーシティ戦略を見直すための考え方について解説する。
チームのダイバーシティに注目しているか
「人的資本経営」において、企業のダイバーシティが再び注目されている。2020年に経済産業省が公表した「人材版伊藤レポート」にも、人事戦略の5つの共通要素のひとつとして「知・経験のダイバーシティ&インクルージョン」が掲げられている。
日本では企業のダイバーシティというと、「女性活躍推進」や「外国人・障がい者・シニア人材の雇用」といったテーマに置き換えられてしまうが、本来のダイバーシティの意義はもっと広く深いものである。それは単に多様な人材を集めることではなく、「知の多様性」、すなわち異なるバックグラウンドを持つ人々の知識や経験、考え方などが交流し、新たな価値を創造する環境を整えることにある。
経営学において企業がダイバーシティを推進する目的は、従業員間の知の相互作用を通じて創造性を高め、組織のパフォーマンスを向上させることだ。そして、この知の相互作用が実際に起こるのは、「チーム」や「課」といった日々協働する現場の組織単位である。会社全体の女性管理職比率などを高めることはもちろん重要だが、ダイバーシティ・マネジメントはチームを単位としてデザインし、その多様性を最大限に活かすという視点が不可欠だ。以下で7つのコンセプトを紹介しよう。
❶ 知の多様性を高める 人的資本
ダイバーシティには2つの側面がある。1つは、性別、年齢、国籍、人種などの人口統計学的な属性のダイバーシティ(demographic diversity)。もう1つは、知識や能力、経験、考え方などの内面的な違いを指すダイバーシティであり、まさに「知の多様性」に直接結びつくものである。これは知識のダイバーシティ(knowledge diversity)や認知的ダイバーシティ(cognitive diversity)、タスク型ダイバーシティ(task-related diversity)、ファンクショナルダイバーシティ(functional diversity)ともよばれる。
第1のコンセプトは、この内面的なダイバーシティを重視することだ。その糸口となるのが人的資本(human capital)である。メンバー個人の持つ知識やスキル、能力などの人的資本が、チーム全体でバラエティに富んでいることをダイバーシティ・マネジメントの主軸にするのである。チームのメンバー構成の検討は、チームの目的や戦略を踏まえてどのような人的資本が必要かを明確にすることから始まる。その際のポイントは次の3点である。
1つめは、人的資本の適切な評価と可視化である。メンバーの知識・スキル・能力などを客観的な評価基準で体系的に整理し、チーム全体で可視化する。そうすることにより、チームごとの人的資本を俯瞰し効果的に拡充できるだけでなく、メンバーの相互理解が促進され、創造性を引き出すコラボレーションの前提が整うのである。
2つめは、メンバーの個性を活かすことである。チームに必要な人的資本をメンバー全員が均一に持つ必要はなく、それはむしろ知の多様性にとって逆効果になる。メンバーそれぞれに強みと弱みがあることを認識したうえで強みを伸ばし、専門性や独自性を高めていくことが求められる。
そして3つめは、メンバーの組み合わせを意識することだ。チームの力は個々の力の単純な総和ではなく、メンバーのコラボレーションを通じてどれだけ創造性を発揮できるかにある。異色のメンバーを意図的にチームに加えるなど、異なる分野や領域の人的資本を結びつける試みも重要だ。
❷ 分断を緩和する フォルトライン
チームの知の多様性を高めようとすれば、様々な属性の多様性も高まることは必然である。しかし、属性のダイバーシティは、必ずしもチームのパフォーマンスを向上させない。なぜなら、性別・年齢・国籍などの違いにより、メンバーが自分と同じ属性のメンバーを内集団として、異なるメンバーを外集団として認識することで、チーム内が複数のグループに分断されるからである。
この分断の生じる断層を、フォルトライン(faultline)とよぶ。フォルトラインによって、メンバーが内集団には好意的になる一方で、外集団に対して敵対的になったり偏見を持ったりすることがあり、チーム内の対立や分裂が生じてしまうのだ。

