常盤文克の「人が育つ」組織をつくる 第9回 これからの人づくり
時代のあらゆる流れを受け、日本の企業の経営や組織運営の在り方は岐路に差しかかっています。人が育つ組織に必要なこととは。
元・花王会長の常盤文克氏が、これからの日本の企業経営と、その基盤となる人材育成の在り方について、提言します。
「人が育つ」環境をつくる
今回は、これまで取り上げた“人育て”を振り返りながら、改めて「人が育つ組織」の在り方を考えてみます。
まず、組織の中で人が育つには、“育つ”文化や風土の有無が問題です。この文化や風土は、目に見えない形で存在する、組織の中に宿る「黙の知」や「共同体精神」と深く関わっています(連載第3回参照)。また、時をかけて集団の中で積み重ねられてきた人々の価値観や信頼感、温もりといったものも大切です。
夢や幸せがやる気を生む
企業にとって大切なのは、売り上げや利益などの数値目標だけではなく、社員の“夢”や“幸せ”、そして経営トップの掲げる“旗”です(第7回)。その旗は、社員が「これは面白い。よし、やってみよう」と奮い立つような、“きらめく旗”でなければなりません。
教育の制度や仕組みをいくら整えても、それだけでは人は育ちません。これは長く経営に携わってきた私の経験からも明らかです。挑戦したくなる夢のある仕事、やり甲斐のある仕事であるかどうかが大事なのです。この挑戦を通して、人は自ずと育つのです。
興味こそ仕事の原動力
夢のある仕事とは、“興味”が湧く面白い仕事のことです。興味が、よい仕事の原動力となります。
このことについて、画家の安野光雅さんは、ある雑誌のコラムで、ヨーロッパ旅行中にパリのカフェで出会った学生とのエピソードを紹介しています。