CASE1 大日本印刷 目標管理制度の見直しが、自律的な学びを促進 心理的安全性を高めるコミュニケーションで挑戦と学びを循環させる組織風土へ 野村聡彦氏 大日本印刷 人事本部労務部第2グループ リーダー|山岡 功氏 大日本印刷 人事本部労務部第2グループ|佐藤 工氏 大日本印刷 人事本部労務部第2グループ|平井美純氏 大日本印刷 人事本部労務部第2グループ
大日本印刷(DNP)では、「社員の存在こそが最大の強み」という理念のもと、挑戦と学びを循環させる風土づくりに注力。
キャリア自律支援金や研修付き人材公募、DNP価値目標制度(DVO制度)、表彰制度などにより、心理的安全性を高めながら社員の挑戦意欲を育む環境を構築している。
社員が自ら学び、成長を実感できる組織風土はどのように醸成されているのだろうか。
[取材・文]=本間 幹 [写真]=DNP提供
社外でも活躍可能な人財を育てる
3万6,000名超の社員を擁するDNPグループの人財・組織開発の取り組みのベースにあるのは「社員一人ひとりの存在こそが、より良い未来をつくり出していくための基盤であり、自社の強みの源泉である」という考え方だ。
「DNPグループの一番の強みは社員です。だからこそ、社員が生き生きと働き、成長を実感できる風土づくりが企業成長に直結すると考えています」
そう語るのは、大日本印刷人事本部労務部第2グループリーダーの野村聡彦氏である。
この思いは、一過性のスローガンではなく、長年にわたり積み重ねてきた経営方針の1つに位置づけられている。それは2022年に人に対する普遍的かつ基本的な姿勢を示した「人的資本ポリシー」からもうかがえる。
「人的資本ポリシー」は、「社員一人ひとりが強みを伸ばし、社会で活躍できる人財に成長してほしい」という思いと、「社員を大切にし、大切にした社員によって企業が成長し、その社員が社会をより豊かにしていく」という理念を明文化したもの。特徴的なのは、「社会で活躍できる人財」という部分である。社内だけでなく、社外でも通用する人財の輩出を標榜しているのである。
「かつては自社内で活躍できれば、それでよかったのかもしれません。しかし雇用の流動化や事業の再編が進む現在、それだけで価値を創出し続けるのは困難になっています。そこで社員の自律的なキャリア形成を支援し、社内はもちろん社外においても活躍できる人財へと成長してもらう取り組みを進めているのです」
同社が自律的なキャリア形成を後押ししているというのは、多様な施策を見ても明らかである(図1)。しかしその一方で、スキルアップした人財が流出してしまう懸念はないのだろうか。この疑問に対して、野村氏はこう答える。

「社外で活躍できる人財となっても、なおDNPで働きたいと思える関係性を築くことを重視しています。囲い込むのではなく、開かれた関係性こそがエンゲージメントにつながるのではないでしょうか。また、退職して別の道を歩むことになっても、良好な関係を保てていればビジネス上のつながりは続くものです。それが当社の事業はもちろん、社会全体に対しても好影響を与えていくと考えています」
たとえ社員が社外でも通用するスキルを身につけ、転職したとしても、最終的に自社のブランド価値向上につながると見ているのだ。
自律的キャリア形成を後押しする多様な取り組み
前述のように、同グループでは、社内外で活躍できる人財への成長を促すため、自律的なキャリア形成支援制度の充実を図っている。「キャリアチェンジを図りたい」「キャリアの幅や質を向上させたい」「社外での経験を積みたい」という目的別に施策を用意するが、たとえば自己啓発に関しては、通信教育やeラーニングシステムによる学習支援に加え、2023年4月からは全社員を対象に月額1万円(制度開始時は5,000円)を支給する「キャリア自律支援金」を導入。また、「価値創造セミナー」や「副業のすすめ」といった社内外から講師を招いて実施するセミナーを月に数回開催するなど、社員の視野を広げるべく、多様な学びの場を用意している。

