CASE 1 フジクラ データ分析に基づくブレない施策 経営課題を解決する “活き活き”社風づくり
国内電線メーカーのフジクラでは、「健康経営」や「データヘルス」という言葉が世間をにぎわす以前より、経営課題解決のための社員の健康増進施策を進めてきた。
徹底したデータ収集・分析に基づく取り組みは、経済産業省や厚生労働省など、行政からも注目されている。
導入の背景や方針など、キーパーソンに話を聞いた。
●背景 経営課題解決のための健康
「“つなぐ”テクノロジー」を合言葉に、光通信やケーブルシステムなどの分野で、社会インフラを支えるフジクラ。同社では2013 年、「全社健康増進・疾病予防プログラム」を開始した。社員の健康に関するデータを分析・検証し、社員が取り組みやすいさまざまな健康づくり施策を打ち出している。
利用するデータは、多岐にわたる。特徴的なのは、社内に測定室を常設し、血圧や体組成、さらにストレス度合いを測る脳波や心電図などのバイタルデータを日常的に集めていることだ。これらのデータは健康保険組合が持つ健康診断結果と合わせ、施策立案時の貴重な資料となる。また社員は、オリジナルの健康サイトで自身の健康状態を把握できる仕組みだ。
同社が経営課題解決のために、“社員の健康”に着目したのは、2000 年代後半のことだった。人事・総務部健康経営推進室副室長の浅野健一郎氏は、その頃の状況をこう語る。
「当時、2010年からの中期経営計画の策定を控えていました。リーマンショックが世間を騒がすなど、先行きの見えない不透明な時代の流れもあり、社内の空気は『この先どうなるんだろう』という漠然とした不安に包まれていました」
企業が継続し続けるには、社会に認められる存在でなければならない。それには何が必要なのか―同社が出した答えは、「新しい事業領域の創出」だった。
「新たな取り組みには、“攻め”の姿勢が求められます。しかし、社員が身心※に不安を抱えていたとしたら、どうでしょう。無意識のうちに“守り”の姿勢に入り、果敢な挑戦が妨げられてしまいます。会社が次のステップへ踏み出すには、経営の観点で社員の健康へ意識を向ける必要がありました」(浅野氏、以下同)
そしてもう1つのきっかけとなったのが、2009 年の社長交代である。新社長の長浜洋一氏は、就任直後に経営のゴールイメージを発表した。「お客様からは感謝され、社会からは高く評価され、社員が活き活きと仕事をしている」という未来図である。さらに長浜氏は、これを単なるメッセージで終わらせなかった。実現に向け、具体的な施策の立案と実行を求めたのである。
そのひとつが、2011年の「ヘルスケア・ソリューショングループ」開設だった。コーポレート企画室に配置(当時)し、経営直下で社員の健康増進に向けた取り組みを考える。
「ポイントは、“健康が経営課題解決の切り口だ”ということを、社員に示した点です。労働安全衛生や福利厚生の充実との目的の違いを明確にする意味でも効果がありました」
先の社長の言葉は2014年に発表した「フジクラグループ健康経営宣言」にも記されており、取り組みのベースに位置づけられている。
●STEP1 “活き活きさ”を定義
「活き活きと仕事をする」とは、どのような状態なのか―取り組みは、それを定義することからスタートした。
実態把握のためのデータ収集に始まり、いろいろな角度から検討を重ねた結果、同社では、「活き活きとした状態」を、次のように定義した。
1)仕事に誇り(やりがい)を感じ
2)熱心に取り組み
3)仕事から活力を得ている
つまり、「ワークエンゲージメント」の高い状態をさしている。そしてこの定義、実は「健康」については全く言及されていない。
「誤解を恐れずに言えば、極端な話“病気”であっても構わないのです。病気であること以上に、“元気がない”ことに問題があります。たとえ病を抱えていても、その病気との向き合い方を理解し、『大丈夫だ』という安心感があれば“、活き活きと仕事をする”ことは可能なはずです」