OPINION3 もう、苦しみながら1人で学ぶ必要はない 「学びたい」ことを「皆で学び合う」実践共同体のすすめ 松本雄一氏 関西学院大学 商学部 教授
松本雄一氏
「いまは『学びの孤立』が起きている。それを防ぎ、皆で学び合い、成長し合う取り組みが必要」――。
そう語るのは、関西学院大学教授の松本雄一氏だ。
これまでの企業の人材育成には「自分が学びたいこと」を「皆で学ぶ方法」がなかったのだという。
そこで取り入れたいのが、「実践共同体」、つまり「学びのためのコミュニティ」の取り組みである。
学びのコミュニティとは何なのか。これがなぜ、学びや学び合いを促進させることができるのか、話を聞いた。
[取材・文]=平林謙治 [写真]=編集部
「学びの孤立」をなくし一緒に学ぶ
人材開発論が専門の関西学院大学商学部の松本雄一教授は「授業中、“目が死んでいる”学生たち」に、こう語りかけるという。
「いま、人材開発論を目一杯学んでも、君たちが実際に職場で人材の育成に携わるのは、随分先だ。でも、それまでに何か困ったことがあったら、授業で学んだ内容を思い出して、自分で自分を育てるためにそれを使ってほしい。人材開発論の“人材”には、自分自身も含まれるのだから」
「この話をすると、完全に“死んでいた”学生も“瀕死”くらいまでは蘇りますね(笑)」
ユーモアに溢れた語り口ながら、松本氏の深い示唆に、はたと気づかされる。仕事のなかで自律的に学んで成長することを、現代ほど強く求められる時代はなかった。にもかかわらず、その方法、つまり何をどう学んで成長するかは、新人でも若手でも、自分で考えなければならないのが実情だ。
「大学でも基本、そんな講義はありません。私の人材開発論の授業では意識していますが、それでも社会へ出たら誰も教えてくれない。学べ、学べと言われながら、そんな大切なことを自分独りで、自己責任で考えなければいけないなんて、正直キツイですよね。働く人の多くがそうしたキツイ状況、いわば『学びの孤立』のなかにあるといえます」
考えてみれば、そもそも私たちは学生のころから「学びは1人で、ストイックに取り組むべきもの」「自己成長は個人の力で成し遂げなければならない」という、固定観念にとらわれてきた面があるのは否めない。
「それが『学びの孤立』に陥る要因の1つ」と、松本教授も指摘する。
「独学で主体的に学べる人や、自分のペースで好きなように勉強したい人もいるでしょう。しかし、誰もがそうとは限りません。むしろ1人で学んでいるとモチベーションが続きにくく、行き詰まりやすいのが普通ですよ。より良い学びが求められる時代だからこそ、『学びの孤立』を防ぎ、みんなで学び合って、互いに成長し合う取り組みが必要なのではないでしょうか」
そこで注目したいのが、松本氏が研究し、提唱する「実践共同体」という概念だ。
サークルに近い「第3の学習の場」
松本氏によれば、「実践共同体」とは、端的にいうと「学びのためのコミュニティ」のこと。
「より詳しい定義としては、『特定のテーマに対する関心や課題などを共有し、その分野の知識や技能を、持続的な相互交流を通じて深めていく人々の実践の場』を意味します」

