CASE2 山九 氷河期世代がもたらす“新たな風”に期待 公平な処遇と学びの機会を提供し世代を問わず、多様な人材の成長を促す 小川 晋氏 山九 人事部長|松本 靖氏 山九 人事部 人事企画担当部長 兼 採用・キャリアサポートグループマネージャー

プラント・エンジニアリングなどの機工事業と物流事業を柱とする山九は、人材不足の解決策の一環として、2019年に氷河期世代の採用活動をスタート。
キャリア(中途)採用全体を強化するなか、結果として氷河期世代が多数採用され、社内で活躍している。
背景には、世代を問わず成長できる同社の企業風土があった。
[取材・文]=増田忠英 [写真]=編集部
人材不足解決の糸口として氷河期世代に着目
2019年、政府が就職氷河期世代を対象にした就職支援プログラムを開始したのを機に、山九は就職氷河期世代を対象にした採用活動をスタートした。同社人事部人事企画担当部長兼採用・キャリアサポートグループマネージャーの松本靖氏は、当時の状況についてこう話す。
「当社は従来、定期(新規)採用を中心に進めておりましたが、数年前から人材不足の傾向があり、特に当社の成長事業である機工事業でプラントの工事監督を担う人材の確保が課題となっていました。そこで、政府の支援プログラムを活用し、ハローワークや自社ホームページでの情報提供を通じて就職氷河期世代を対象とした独自の採用施策を展開することにしました」
同社が就職氷河期世代の採用に注目した理由は2つある。1つは、「就職活動で苦労されたためか、定着率が高い」(松本氏)こと。実際、同社におけるキャリア採用者の離職率は2割弱と、新卒採用者の24%よりも低く、入社3年を経過するとさらに低下する傾向があった。
「定着率が高いのであれば、未経験者でも育成することで戦力になります。そのため、未経験者も含めて積極的に採用したいと考えました」(松本氏)
もう1つの理由は、社内の年齢構成において、就職氷河期世代に当たる30代後半~40代半ばの世代が谷間になっていたこと。就職氷河期世代に絞った採用を行うことで、この問題を解消できると考えた。
当時は、自治体の就職氷河期世代を対象とした採用に多くの応募が集まり、また同社の就職氷河期世代採用の取り組みが様々なメディアに取り上げられたこともあり、就職氷河期世代枠での採用への期待は大きかったという。
ところが蓋を開けてみると、支援プログラムによるハローワークを通じた就職氷河期世代の採用枠への募集は期待したほど集まらず、3年間で採用は23名に留まった。
一方で同社は、同時期からキャリア採用全体の強化も進めてきた。その結果、キャリア採用者の数が増えるなかで、就職氷河期世代の採用も増加することとなった。
2019年から2025年7月1日までのキャリア採用実績1,530名のうち、就職氷河期世代(1970年4月~1982年3月生まれ)に該当するのは366名で、全体の24%を占める。毎年40~70名程度とばらつきはあるものの、コンスタントに確保できている状況だ。なお、採用者は本社採用の管理職・専門職、事務・技術総合職、地域採用の事務技術一般職、技能系と多岐にわたる。
「当社で必要とされる優秀な人材であれば、年齢にとらわれず採用した結果、キャリア採用の4分の1を就職氷河期世代が占める結果となりました」
こうした経緯から、現在、同社は就職氷河期世代だけをターゲットとして特化するのではなく、就職氷河期世代を含めすべての世代を対象としたキャリア採用に重点を置いた取り組みを展開している。