欠かせないのは「誠実さ」人材を最大の経営資源として世のため人のために貢献を 中村哲己氏 建設技術研究所 代表取締役会長

日本で最初の建設コンサルタントとして80年にわたる歴史を持つ建設技術研究所。
代表取締役会長の中村哲己氏は、「人材こそが最大の経営資源」と言い切る。求める人材像とは。
また、技術以上に欠かせないという「誠実さ」や、「最後の責任」から逃げないリーダーとしての覚悟について、話を聞いた。
[取材・文]=平林謙治 [写真]=山下裕之

あの難工事を描いた映画に憧れて
―― 「建設コンサルタント」という業種は、社会の安全・安心を支える重要な使命を担いながら、一般にはあまりなじみがありません。まさに“縁の下の力持ち”ですね。
中村哲己氏(以下、敬称略)
その知名度不足が、当社に限らず、業界全体の課題の1つといってよいでしょう。役割や業務内容がどうしても見えにくいですからね。
道路や河川、ダムなどのインフラ整備は人々の生命・財産・暮らしを守り、戦後の経済成長の礎を築いてきました。一般に、インフラ整備の発注者は国や地方自治体で、実際に工事を行うのはゼネコンなどの建設会社ですが、その間に入って、整備事業全体をプロデュースするのが、我々建設コンサルタントの立ち位置です。発注者の技術的なパートナーとして、計画から調査・設計に当たり、その設計に基づいて建設会社が施工を進めます。インフラは、あるのが当たり前。普段は誰も意識しませんが、その当たり前の安心・安全で便利な社会をつくる一端を、実は建設コンサルタントが担っているのです。
―― 会長ご自身も、この仕事を選ばれたのはやはり社会貢献への思いや使命感からですか。
中村
ええ。私の原点は、小学生のときに見た『黒部の太陽』ですから(笑)。若い人にはピンと来ないと思いますが、石原裕次郎さんと三船敏郎さんの共演で、黒部ダム建設の苦闘を描いた往年の大作映画です。世紀の難工事に挑む人々がとにかくカッコよくて、子ども心にも感動しましたよ。もちろん土木や建設のことなど何もわかりませんが、世のため人のためになる大きな仕事を自分もやってみたいと、おぼろげに憧れを抱いたものです。
―― 「世のため人のために」という意識は、むしろ最近の若い世代ほど高いともいわれます。
中村
だからこそ、この仕事の魅力を十分に発信できていない現状が、私はもどかしいんですよ。人材獲得競争が厳しさを増すなか、インフラ整備の仲間である大手ゼネコンさんなどは、CMをどんどん流してアピールしていますが、我々はまったく足りていません。もっと知恵を出さなくては。人材こそが当社の最大の経営資源であり、その確保は持続的成長の生命線ですから。
インフラ整備で人々を災害から守る
―― 建設技術研究所(以下、CTI)は「日本最初の建設コンサルタント」です。その80年にわたるインフラ整備の歴史を語るとき、避けて通れないのが頻発する災害との闘いではないでしょうか。

中村
実は私自身、災害とは妙な縁があるんですよ。2011年に仙台へ転勤した際に東日本大震災が起こり、東北支社長として4年間、災害復旧に努めました。続いて赴任した九州でも、2年目に熊本地震を経験。東日本大震災での教訓を活かして現地災害対策本部を置くなど、最前線で復旧活動に当たりました。ひと口に復旧といっても、まずは何がどうなっているのか、現地へ赴いて被災の実状を把握しなければ、手の打ちようがありません。発災直後はまだ危険な場所も多いので、大げさでなく、調査もなかば命がけの仕事になるのが普通です。