CASE2 日本郵政グループ|経営戦略と連動した戦略人事の施策として 組織風土を変える日本郵政グループの「戦略的副業」 大橋資博氏 日本郵政 人事部 担当部長
日本郵政グループは、2024年5月に策定した中期経営計画「JP ビジョン2025+(プラス)」において、組織風土改革の一環として「戦略的副業」を推進。
社内に新たな知見をもたらすための取り組みは今、組織や社員の空気を変えつつある。
制度確立から浸透までどのような試行錯誤があったのか、話を聞いた。
[取材・文]=平林謙治 [写真]=日本郵政提供
人と組織の在り方を変える、組織風土改革の一環として
「副業に積極的な企業」と聞いて、意外に感じる人もいるだろう。日本郵便・ゆうちょ銀行・かんぽ生命保険の事業会社3社と持株会社の日本郵政からなる日本郵政グループ。組織の前身は言わずと知れた旧郵政省で、“元お役所”という出自にはむしろ副業と縁遠い印象しかない。
「ずっと国営でやってきた組織でしたので外との交流は少なく、内向きな文化が残っていた時代がかつてあったのは確かでしょう」
そう振り返るのは日本郵政人事部担当部長の大橋資博氏だ。大橋氏は「もともと民営化直前の特殊法人の時代(日本郵政公社)に中途採用で入社したが、一度退職し、コンサル業界を経験した後、再就職で現在の日本郵政に入社した」という異色の経歴の持ち主。外の世界をよく知るからこそ、副業推進にかける思いも強く、深い。
「2007年に民営化、15年には株式上場も果たしましたが、やはり事業の土台となる人と組織の在り方から変わっていかなければ、企業としてさらに成長し、激化する競争環境を勝ちぬいていくことはできません」
そうした課題感から同社グループでは、2021年に策定した中期経営計画『JPビジョン2025』において、グループ内外の人事交流促進による組織風土改革を目標に掲げた。「その具体策の1つとして副業に注目したのです」と、大橋氏は説明する。
「社外から副業人材を受け入れると同時に、当社も外へ人を送り出す。交流することで、社内にない知見や発想、日常の業務や研修では得られない学びが得られるのではないか。そこから組織や業務のさらなる変革を加速し、企業価値向上につなげていければと考えています」
実際に具体的検討が始まったのは2022年4月頃から。まずトライアルとして、人事が自らメンバーを社外へ送り出し、「副業」を経験。ある自治体で地域課題の解決を目指す案件に参画。副業を経験したメンバーも、受け入れ先もお互いに好感触を得たことから、人事部では「組織全体で取り組む価値がある」と意を強くし、実施に踏み切ったという。
人を送り出し、受け入れる「戦略的副業」とは
そして、同年10月からグループ各社の本社を対象に、「社員による社外副業」「グループ外の副業人材の受け入れ」「グループ間の副業」という3つの副業を一体的に進める「戦略的副業」を開始した(図1)。