CASE 1 日立国際電気 施策の“合わせ技”で課題に挑む “つなげる人”を育てる 業務直結型4施策
日立国際電気では、“つなげる人”をキーワードに、技術人財の育成に向け、4つの施策を打ち出す。
実施に際しては、人財戦略部が現場に入り込み現場と協働する。
市場動向と人員構成の課題を踏まえた施策とは。
● 背景1 ビジネスで起きる現象の見定め
映像・無線システム、半導体製造装置の大手、日立国際電気。モバイル端末の送受信システムをはじめ、放送カメラやセキュリティカメラの映像技術、半導体製造装置の開発など、社会インフラを支える存在だ。
当然、高度なテクノロジーが同社の屋台骨となるわけだが、それだけでは激しい競争を勝ち抜くことはできない。人事総務本部人財戦略部主管の森邦夫氏も、同社を取り巻く事業環境の厳しさを痛感している。
「国内外の競争相手の増加により、私たちの事業領域も価格競争の波にのまれつつあります。そのため、グローバル化や新たな市場の開拓に向けて、コストダウンや開発のスピードアップは不可欠です」
また、顧客のニーズは複雑化・多様化し、真に必要なものの見極めが難しい。さらに、社外のステークホルダーに対するさまざまな対応が、ビジネスを難しくしている。
外部環境の変化だけではない。業界として共通の課題である人員構成のゆがみも問題である。
1 )若手人財の不足と知的財産の壁
「一般的な電機業界の人員構成は、30 代は40 代より少なく、20 代は30 代より少ないといわれています」(森氏、以下同)
バブル経済崩壊後、多くの企業は業績が低迷し、新卒採用を抑える時期があった。
「その結果、一部の製品や技術は取引先と協力しながら開発する比重が増しました。その際、知的財産の対応が壁となりました。機密保持の観点から、当社も取引先もブラックボックスを前提に仕事を進めます。さらに双方の拠点間の距離もあると、コミュニケーションの難しさも増します」
2 )求められるインターフェース力
IoT(Internet of Things)に代表されるように、情報技術はまさにインターフェース(橋渡し)がカギとなる。その際、対象物の全体像を捉え、各要素の因果関係を認識する力が必要だ。さらに先述の通り、外部との関係を構築しながら開発する時代である。よって技術者にインターフェースする力が求められる。
こうした背景から、将来の技術人財を考える際、図1の通り、“つなげる人”をキーワードとしている。
● 背景2 細分化された専門領域の弊害
2)の通り、今後の技術開発は“橋渡し”がカギとなる。しかし、技術者の技量はそれとは相反する様相を見せる。
3 )技術・知識の細分化
技術の複雑高度化に伴い、技術者の専門領域は細分化している。
「専門性の高い技術者は多数います。しかし、その知識や技術は製品全体の一部分に過ぎず、全体像を理解して語れる人財は、特に若手には少ないです」
若手技術者の技量が断片的になってしまう理由は多岐にわたるという。特に以前と比べ、モノづくりにおいて、全体を把握する機会の減少という影響は大きいと、森氏は指摘する。
「50 代以上のベテラン技術者は、1つの製品をまるごと自分の手でつくり上げ、一連の流れを理解する経験を若いうちにしています。対する若手は、学生時代の研究ひとつとってもテーマがかなり細分化されています。実務でも、最初から最後まで全体を1人でやり遂げるような機会はなかなかないのが実状です」
これでは全体をつかむことはおろか、技術と技術の橋渡し、融合も難しい。一方で、冒頭に示したコスト削減とスピードアップへの対応という難題も、業務の展開に大きな影響を及ぼす。
「経験の浅い技術者を統括業務にアサインさせるのには、かなりのリスクを伴います。そのため、ベテラン技術者がその役割を担わざるを得ません。さらに組織に若手が少ないので、ベテランはプレーヤーも兼任します。非常に多忙になるわけです。さらに、もともと技術者はモノづくりを愛する人間です。どうしても、マネジメントや後輩の育成は後回しになる傾向があります」