OPINION1 最大のリスクは、失敗がなくなること 「失敗から成功をつかみ取れる人」の4つの条件 飯野謙次氏 特定非営利活動法人失敗学会 副会長・事務局長
事故や失敗発生の原因を解明し、未然に防ぐ方策を提供する「失敗学」。
まさに失敗を学び、失敗に学ぶこの学問では、人がミスや失敗を起こすのは避けられないことだと捉え、仕組みや構造から改革するというのが基本的な考え方だ。
失敗から学ぶために必要なことは何なのか、失敗から学べる人にはどんな特徴があるのか、失敗学会副会長の飯野謙次氏に聞いた。
[取材・文]=平林謙治 [写真]=編集部
原因をヒューマンエラーに帰してはいけない
痛ましい天災と人災が、年頭から相次いだ衝撃は記憶に新しい。元日の能登半島地震と、その翌日に羽田空港で起こったJAL旅客機と海上保安庁機の衝突事故である。
後者では発生直後から、両機機長および空港の航空管制室の過失かと大々的に報じられ、実際、その後の調査で海保機が管制室からの指示を誤認し、滑走路へ許可なく進入していたことがわかった。
やはり原因は過失なのか。いや、それはあくまでもトリガーにすぎない。特定非営利活動法人失敗学会副会長の飯野謙次氏は、「ヒューマンエラーは“本質的な原因”ではなく、むしろその結果。事故をヒューマンエラーで片付けてはいけません」と、強調する。
「海保機が誤って滑走路へ進入したとき、管制室のモニターにはそれを検知して画面が黄色く変わる表示が出ていたにもかかわらず、管制官は誰も気づかなかったそうです。国土交通省は対策として、そのモニター画面だけを監視する要員を配置するとしていますが、ただでさえ忙しい管制官のなかで人繰りをするというのですから、逆に別の事故につながらないか心配になりますよ。そもそも人間の注意力に頼って画面の監視を強化するのではなく、アラート音を鳴らすなど、危機回避の仕組みそのものを見直そうという発想に、なぜならないのか。それなくして、再発防止はありえません」
飯野氏らが推進する失敗学では、失敗やミスを避けるために、人間の注意力を高めようと努力するのは、実は何もしないのと同じだと強く戒めている。事故も、災害も無いに越したことはないが、人がどんなに注意してもミスや失敗は起こりうるからだ。その限界を前提としたうえで、起こしてしまった失敗を人が二度と繰り返さないように、仕組みや構造から改革するというのが、失敗学の基本的な考え方である。
失敗に学ぶのがうまい人には理由がある
失敗学は、工学から派生した研究領域だ。提唱者で、失敗学会会長の畑村洋太郎氏が2000年に上梓した『失敗学のすすめ』が注目を集め、その考えが広く世間に認知された。工学系の現場を中心に、国内外の事故やトラブルなどの情報を収集・分析し、解決策を検証する―― 文字どおり、“失敗を学び、失敗に学ぶ”学問に他ならない。
だが、現実のビジネスシーンではどうだろう。昨今、何かとたたかれやすいだけに、「失敗に学ぶ」よりむしろ失敗を恐れ、最初から「とにかくミスしないようにする」ことを第一に選択、行動する風潮が根強くはびこっているのではないか。
その一方で、「ミスや失敗をしていながら評価が高い人」がいるのも事実だと、飯野氏は指摘する。
「そういう人が、実は自らの失敗と正しく向き合い、そこから成功をつかみ取っている。つまり、『失敗に学ぶ』のがうまい人だといっていいでしょう。先述したとおり、どんなに注意しても、私たちはミスや失敗を100%撲滅することはできません。
日々の仕事でミスや失敗とは無縁に思える人でも、実際は過去に失敗を重ね、悔しい想いをしていることが多い。その体験から失敗を防ぐ術を学び、仕事の安定感を増してきたのです。ましてや、新しいチャレンジをしている人なら、それだけ未知の失敗のリスクにもさらされやすい。要は、『評価の高い人』ほど、実は多くの失敗をしているということです」