OPINION2 転んでもタダでは起きない 失敗学に学ぶ 経験を力に変える仕組みづくり
人は誰でもミスをする。仕事にほろ苦い経験はつきものだ。
しかし失敗は、経験学習においては貴重な教材となるだろう。
個人と組織で “失敗”を学びの機会に変えるにはどうすればよいか。
そのヒントを、失敗学会副会長・事務局長の飯野謙次氏に聞いた。
失敗学とは何か
失敗学は、機械工学から生まれた学問だ。建築や鉄道、製造現場などで起きた事故やトラブルを振り返り、同じ失敗を繰り返さないようにするのが目的である。提唱者でもある、失敗学会会長の畑村洋太郎(東京大学名誉教授)が2000年に出した『失敗学のすすめ』という本がヒットし、その考えが世間に認知された。
失敗事例から学び、同じ失敗の繰り返しを防ぐために、失敗学では2つのステップを用いて失敗を考察するのが通例だ。
STEP1 原因を分析する
はじめに、失敗の原因を分析する。原因には「直接原因」と「間接原因」の2つがある。
「直接原因」とは、事故やトラブルの引き金となった物理的な出来事を指す。東京電力福島第一原発の事故の例では、「津波の影響で設備全体の電源を喪失したことによる、冷却系の機能不全」が当てはまる。
対する「間接原因」は、直接原因を引き起こした背景について探る。このため抽象的な要素も含まれる。先の例では、原子力保安院などが、“産業の育成”を主眼とする組織から生まれた機関だったために、安全性の追求が不十分だったことがそれに当たる。
この間接原因は、失敗学では重要な位置づけにある。失敗の根底に潜む要因を把握しなければ、再び同じ失敗を繰り返すことになるからだ。
原因分析を進めると、ほとんどの事例で、図1の10項目全てに何らかの要因が当てはまる。例えば、表面上は当事者の無知によって起こった失敗だとしても、「無知な人間にその仕事を任せた」理由を探ると「組織運営不良」にたどり着く。この図の周りにさらに分析結果を配置していくことで、1つの失敗を多面的に考察できる。
STEP2 失敗を繰り返さない仕組み
次のステップは、同じような事故やトラブルを起こさないための、新たな「仕組みづくり」である。