社会貢献企業を目指し、数字ではなく、ビジョンで率いる 近藤 昭氏 ヒノキヤグループ 代表取締役社長・CEO
積極的なM&Aや独自の全館空調システム「Z空調」の好調によって、東証一部上場を果たしたヒノキヤグループ。
躍進が続くなか、2022年にヤマダホールディングスの完全子会社化となる決断を下したのが代表取締役社長・CEOである近藤昭氏だ。
先を見据えて描く、経営戦略、人材戦略について聞いた。
[取材・文]=村上 敬 [写真]=山下裕之
多角化から本業回帰へ
―― 住宅業界は競争の激しい業界です。そのなかでヒノキヤグループはどのように成長してきたのですか。
近藤昭氏(以下、敬称略)
ヒノキヤグループは1988年に埼玉県で小さな工務店として創業しました。以来、少しずつエリアを拡大して成長してきたのですが、2007年の名古屋証券取引所上場を機に戦略を転換。住宅市場は景気の波を受けやすく、一本足打法では経営が安定しないこともあって、積極的なM&Aで成長を図ることにしました。
買収したのは不動産会社や断熱材メーカーなど、住宅産業やその周辺産業の会社が中心です。住宅事業そのものもM&A戦略で成長。複数ブランドを擁し、売り上げのうち大きな割合を占めています。
もちろん住宅事業が成長したのはM&Aによるものだけではありません。ヒノキヤの特長の1つは、企画化・標準化です。もともと私たちはお客様が自由に要望して建てる注文住宅で成長してきました。お客様の要望を何でも聞くのは一見良いことのように思えます。しかし、何もないところから自由に描いて建てるため、完成し、お引渡しの際、お客様の思い描くイメージ・ニュアンスとギャップがある、とのご指摘を頂くことがありました。私たちは良かれと思ってやっていましたが、自由度が高すぎることがかえってお客様の満足度低下につながるケースがあったのです。
お客様のためにやったことが逆効果になると、社員も疲弊します。このままのやり方で拡大すると誰のためにもならないと考えて、私たちの方でメニューをたくさん用意して、それを組み合わせていただく企画型住宅を始めました。これが競合との差別化になりました。
―― 2022年にはヤマダホールディングスによるTOBでヤマダグループに入りました。現在はどのような経営戦略を描いていますか。
近藤
それまで経営の安定化を狙って多角化経営に舵を切ってきましたが、ヤマダグループ傘下に入ったことで経営基盤が安定しました。私たちの強みである住宅事業に集中できる環境が整ったので本業回帰を進めています。保育や介護といった住宅からやや遠い事業は整理をしました。
シナジーも生まれつつあります。ヤマダデンキがEV(電気自動車)販売を始めましたが、住宅と組み合わせると、太陽光で昼間発電した電気をEVに蓄電して、夜に住宅に使う「V2H(Vehicle to Home)」という仕組みを構築できます。これにグループの住宅ローンを加えてパッケージ化しました。こうしたパッケージは単独だと難しかったと思います。
自社の商品を本気で好きな営業が“良い営業”
―― 本業回帰で住宅事業を推進するにあたって、どのような人材戦略を描いていますか。
近藤
住宅事業には設計や施工管理、内勤など様々な職種の社員が関わりますが、中心になるのは営業です。住宅は契約の受注ありきの業態。良い営業をいかに多く確保するのかが成長を左右します。人数としてもボリュームが大きく、住宅カンパニーの5割近くは営業です。
会社がまだ小さかった上場前は、自社で育成するだけの余裕がなく、経験者を中途採用していました。ただ、同業他社から採用した人のなかには転職慣れしている人も多く、しばらく働いたらまた他社に移っていく傾向がありました。ある程度の新陳代謝は必要ですが、定着率が低いと社内にナレッジが溜まらないし、採用費もかさみます。そこで上場を目指し始めたころから新卒採用や中途でも未経験者の採用に徐々にシフトさせました。新しく入社した人をいかに早期に戦力化するか、そしてこの仕事をいかに好きになってもらうか。人材面ではそこを重視しています。