CASE1 サイバーエージェント|非定型な人事情報が基盤 チャレンジ経験を積む「あした会議」で個の才能を開花させる 石田裕子氏 サイバーエージェント 専務執行役員 兼 人事管轄採用育成本部長
ベンチャー企業のイメージが強いサイバーエージェントだが、創業から25年、いまやインターネット広告事業をはじめ、メディア事業、ゲーム事業など、インターネットを軸に幅広く事業を展開するコングロマリットになった。
組織が大きくなると一律的な管理をした方が効率的に運営できるが、同社は現在でも個を活かすカルチャーで組織を運営している。
そのカルチャーを人事はどのようにサポートしているのか。
[取材・文]=村上 敬 [写真]=サイバーエージェント提供
スケールデメリットは徹底排除
従業員数は単体で1,977人、連結で6,337人(2022年9月末時点)と、いまや日本を代表する大企業となったサイバーエージェント。変化の激しいインターネット業界で成長を続けてきたのは、同社自身が変化を続けてきたからだ。
祖業はインターネット広告だが、2004年から開始したブログサービス「アメーバブログ(現Ameba)」で成長。2009年にはゲーム事業へ参入し、以降、ヒットタイトルを連発している。近年は藤田晋社長の肝煎りでスタートしたインターネットTV「ABEMA」に積極的に投資。ニュースやバラエティ、スポーツ中継などバラエティに富んだコンテンツが楽しめると若年層を中心に支持されている。その他にも様々な新規事業を手掛けており、絶えず新陳代謝を繰り返している。
時代に合わせて変化し続けられた背景には、個を活かす組織がある。人事管轄採用育成本部長を兼任する専務執行役員の石田裕子氏は、個を活かす組織を「全員一律ではなく、個人のスキルや強み、やりたいことを引き出して開花させる組織」と位置づけたうえで、そうした組織が強みになる理由を次のように話してくれた。
「インターネット業界は特に変化が激しく、過去の成功体験や過去に修得したスキルがあっという間に使いものにならなくなります。一律に長い年数を経験させてようやく一人前に育てる年功序列型の組織では、変化に対応するのは難しい。トップダウンで『次はみんなでこういうスキルを磨きましょう』と旗を振っても、それが身につく数年後にはまた状況が変わっていて、時代遅れになっている可能性が高いからです。変化に柔軟に対応するには、個々人が持つ力を本人たちが自発的に引き上げて、すぐに発揮できるようなマネジメントが必要です。サイバーエージェントはそれを続けてきたことによって変化にアジャストしてきました」(石田氏、以下同)
「自由と自己責任」というカルチャー
サイバーエージェントには、強烈なカリスマ性を持った藤田晋氏というリーダーがいる。強いリーダーがいる組織はトップダウンで一律に動く印象があるが、実態は逆で、個々人が自ら考えて動く「自由と自己責任」のカルチャーがもともと強かったという。2004年に新卒で入社した石田氏は、当時をこう振り返る。
「インターネット産業自体発展途上の段階だったため、たとえば顧客対応や社内のオペレーションにマニュアルはなかったし、従業員数もまだ100名強という規模感で人事制度も一律なものはなく、個別対応でした。『こういう仕組みがあるからみんなで利用しよう』ではなく、『あなたはどうしたいの?まずは自分で考えて』というスタイルで組織が運営されていました」
個別対応だったのは、組織がまだ小さくて余裕がなく、やむにやまれなかった面もあるだろう。また100人程度ならトップの目が届きやすく、何かあってもカバーできるという面もあっただろう。ただ、組織が大きくなっていくと、立ち止まる余裕ができる一方でガバナンスが利かなくなっていく。一般的にはそこで効率的に組織運営をするために制度を整え、個別対応から一定のルールに基づいて、一律的に管理するフェーズへ移行する企業が多い。サイバーエージェントがユニークなのは、そのシフトを拒み、当初のカルチャーを意図的に維持し続けたことにある。