CASE.3 貝印 人や組織をイノベーティブにする経営企画の挑戦 口コミ的な仕掛けから、 イノベーティブな成果を得る
エンドユーザーとコミュニケーションをとりたいと考える企業は多い。
WEBで企業サイトが流行した時、多くの企業が自社サイトに顧客を集め、
コミュニケーションを図ったが、貝印は、自社製品について書いているユーザーのブログを探し出し、
1件1件コメントを残していくという、逆転の発想で顧客との密な関係づくりに成功した。
発想も素晴らしいが、企業で重要なのは、アイデアを潰さずに実行し、継続すること。その理由を聞いた。
逆転の発想
カミソリや、包丁、爪切りなどの刃物の製造販売で知られる貝印。創業100 年を越す老舗企業だが、斬新な取り組みを行っている。それが、今回紹介する「カイタッチ・プロジェクト」。これは、自社製品について言及しているブログを検索で見つけ出し、その記事にコメントを書き込むことで、ユーザーとの交流を図るというもの。自社サイトにユーザーを呼び込もうとする企業が多い中、まさに逆転の発想といえる。この試みは、口コミで評判になり、数々の雑誌、新聞にも取り上げられた。
2008 年のプロジェクト立ち上げから中心メンバーである経営企画室の遠藤加奈子氏は、当時、広報担当として自社サイトのリニューアルを任されていた。「ちょうどその時期、自社サイトやSNSなどを介してお客様とつながる“企業コミュニティ”が注目の的になっていました」
そこで、貝印でも会員サイトをオープンし、イベント実施などと連動させながら、サイトの充実に取り組んでいた。その中でいつも議論に上がったのは、いかに会員数を増やすかということだった。「“お客様との密なコミュニケーション=会員の囲い込み”という前提で議論をしていたのですが、外部の制作スタッフが、“来てもらうんじゃなくて、会いにいけばいいんじゃないか”と口にされたんです。それが流れが変わるきっかけでした。ただ、他の企業の方でも、そういう発想をされた方はいると思います。問題は、そのアイデアを潰さずに実行できるかどうか。もし、当社が企画立案を外部に丸投げしていたら、“これは通らないだろう”と捨て案になっていたかもしれません。幸い当社では、外部の方と一緒に考えるという体制を取っていたので、そのアイデアを拾うことができました」“ユーザーを見つけて、企業側からコミュニケーションを図る”。発想自体は実にシンプルだが、効果を定量的に計測できないうえ、これまでに前例のない試み。それを実現までこぎつけられたのには、他にもいくつかの幸運なファクターがあった。