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中原淳教授の今日も現場は問題だらけ! 第5回|次世代経営人材育成の進め方(前編)
一筋縄では解決ができない人事・人材育成のお悩み。
今日もまた、中原淳先生のもとに、現場の「困った!」が届きました。
今回のテーマは「次世代経営者育成」。
ゲストにカゴメCHOの有沢正人氏をお迎えし、リアルな現場のお悩みに答えていきます。
※この記事は2022年3月14日に行われたイベント「中原淳教授の今日も現場は問題だらけ オンライン収録大公開! カゴメCHO有沢正人氏と語る『次世代経営人材の育成』」の内容をもとに再構成したものです。
Make戦略かBuy戦略か
中原
次世代経営人材に何をどう学んでもらうか?というご質問ですが、それ以前に、まずは人材戦略そのものを考える必要があるように思います。次世代経営人材育成に関してはMake(内部育成)とBuy(外部採用)、2つの戦略が考えられます。Makeの戦略を取る場合、育成には中長期の時間がかかる、ということを認識しておく必要があります。
では、Buyの戦略を取ればいいかといえば、それも簡単なことではありません。経営層は組織を動かすのが仕事です。組織を動かすには、土着の知識と人脈が必要です。有能さだけで務まる仕事ではなく、新しい組織に一瞬で馴染める有沢さんのような稀有な方でないとなかなか務まらないのではないかと思います。有沢さん、いかがでしょうか?
有沢
私自身は外部採用ですが、カゴメの次世代経営人材育成の基本はMakeです。ただし、同時にBuyのことも考えています。たとえば私の後継者候補は5人いるのですが、そのうちの3人は外部の方です。もし、私に何かあれば、この3人のうちの1人をなんとかして連れてきてほしい、と社長にお願いしてあります。
社長候補についても基本的にはMakeの方向で考えていますが、プロパーでない方が社長になる、ということも想定しています。あらゆる事態に備えてリスクヘッジするということは、人事の大切な役割ではないかと考えています。
カゴメの経営人材育成
中原
カゴメではどのように次世代経営人材育成を行っているのですか?
有沢
カゴメの経営人材育成の基本原則は「自らの強みの理解を起点として、当事者としてカゴメ経営をとらえ、経営を担っていける力、意欲と覚悟を自律性を重んじて育んでいく」というものです。この基本原則をもとに、社長と2人の専務、私がメンバーとなっている人材開発委員会で、執行役員、本部長クラスの中から社長候補を選び、どう育成していくかを検討し、報酬指名諮問委員会に諮って策定します。報酬指名諮問委員会は、社長と私、社外取締役で構成されている社内の最高意思決定機関です。そこで選抜された社長候補に対して教育を行っていく、という流れです。
中原
候補者はどのような形で選抜するのでしょうか。
有沢
まずは各役員に「誰が社長になってほしいか」を選んでもらいます。ある意味、民主主義的なやり方です。その中から、人材開発委員会で候補者を絞り、最終的に社外取締役に選んでもらうという形です。
プロフィール
立教大学経営学部教授。立教大学経営学部ビジネス・リーダーシップ・プログラム(BLP)主査、立教大学経営学部リーダーシップ研究所副所長などを兼任。東京大学教育学部卒業、大阪大学大学院人間科学研究科、メディア教育開発センター、米国・マサチューセッツ工科大学客員研究員、東京大学講師・准教授などを経て、2018年より現職。
著書に『職場学習論』、『経営学習論』『中小企業の人材開発』(東京大学出版会)、『研修開発入門』(ダイヤモンド社)、『チームワーキングケースとデータで学ぶ「最強チーム」のつくり方』(JMAM)など多数。
研究の詳細は、Blog : NAKAHARA-LAB.NET(http://www.nakahara-lab.net/)。Twitter ID : nakaharajun
カゴメ 常務執行役員/CHO(最高人事責任者)
1984年に協和銀行(現りそな銀行)入行。人事、経営企画に携わった後、大手精密機器メーカーのHOYA、AIU保険会社を経て、2012年にカゴメに入社。グローバル共通の人事制度構築の統括に携わり、2018年より現職。全世界のカゴメの最高人事責任者を担う。
[取材・文]=井上 佐保子