MOVIE 人事に役立つ映画 「本」と「人」にふれたい欲望は不滅である 樋口尚文氏 映画評論家 映画監督
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『ボヴァリー夫人』で知られるギュスターヴ・フローベールが14歳のときに書いた『愛書狂』なる小説がある。19世紀の実在の修道士をモデルにしたといわれる主人公は、書物の内容もさることながら書物というかたちを偏愛し、自分の財産も生活もすべて書物につぎこんでしまう。今は普及版で読めるこの小説だが、翻訳が出回っていない三十余年前、京都の看板も出ていないマンションの一室を改造した古書店を訪ねあてたとき、この小説が黒地に金のラベルの付いた函入りの訳書として売られていて驚いた。なんとその古書店が限定300部で書籍化したもので、高名な訳者の署名まで入っていた。私以外の客もおらず誰かと競るわけでもないのに、もう抱きしめるようにその稀覯本を手にとって購入した。その品揃えも店のたたずまいも文字通り「愛書狂」そのものの店に、限定本『愛書狂』はもはや溶け込んだインテリアのようだったが、こういう書物の放つ魅力とはいったい何であろうかと思う。