OPINION2 人事施策が顧客体験価値を向上させる サービスプロフィットチェーンから考えるEX 今西良光氏 Emotion Tech 代表取締役 CEO
人事施策を検討するとき、経営陣や他部門から「会社の利益につながるのか」と問われて答えに窮した経験はないだろうか。
人事施策と利益の関係を考えるうえで参考になるのがSPC(Service Profit Chain)だ。
この概念を理解すると、施策と利益のつながりを可視化したり説明できるようになり、人事施策を進めやすくなる。大手企業をはじめ400社を超える企業のEX・CXの改善支援を行っている
Emotion Tech代表取締役CEOの今西良光氏に、SPCについて話を聞いた。
満足度重視から、体験重視へ
SPC(Service Profit Chain)の説明の前に、押さえておきたい概念がある。「EX (Employee Experience:従業員体験)とES(Employee Satisfaction:従業員満足)」、「CX(Customer Experience :顧客体験)とCS(Customer Satisfaction:顧客満足)」だ。
人事担当者にとって、このうちもっとも馴染みが深いのはESだろう。ESは、従業員が現在の仕事や会社にどれくらい満足しているかという「状態、結果」を指す。それに対してEXは、その状態や結果に至る「要因」となった体験を指す。体験といっても、具体個別のエピソードを示すわけではない。上司との人間関係が良好か否か、給料が自分の望む額に届いているかなど、従業員が働くなかで知覚する様々なこと、そしてそれらの総和を体験とよぶ。
要因と結果という関係性は、CXとCSも同じだ。顧客が知覚する様々な体験が、顧客満足の状態を左右する。
従来、経営のテーマに挙がっていたのはESやCS、つまり満足度という結果の方だった。しかし、近年はその要因となった体験(EX、CX)に焦点が当たるようになった。
なぜこのような変化が起きたのか。Emotion Tech代表取締役の今西良光氏は、CXを例にして次のように解説する。
「背景として、情報の影響力が大きくなったことが挙げられます。いまほど情報が伝播するスピードが速くない時代は、クーポンを配って来店してもらい、それで不快な体験をしなければ、CSは高い水準を維持できました。しかし、いまは誰かがどこかの支店で不快な思いをすれば、SNSなどで瞬く間に広がってしまう。どこから火がついてどこまで延焼するかわからないので、顧客体験の入口から出口まで、しっかりと丁寧に見る必要性が高まりました」
消費活動が多様化したことも大きい。従来は、店舗ビジネスなら店舗、ECならオンラインというように、顧客とのタッチポイントがある程度限定されていた。この場合、CSを左右する体験を探り当てるのはそれほど難しいことではなかった。しかし、現在は要因と結果の関係が複雑化している。
「たとえばアプリで注文して店頭で受けるようなOMO(Online Merges with Offline)の世界が拡大しています。消費活動が多様化すると、どのような体験がCS向上のボトルネックになっているのかわかりにくい。今まで以上にCXを掘り下げる必要があるでしょう」
さらに、企業自身が置かれた状況も影響しているという。
「競争環境は年々激化しています。国内企業はグローバル企業と戦わなくてはいけない。また、可処分所得を他業種と争ったり、他業種の企業が業種の壁を越えて参入するケースも目立ちます。顧客から選んでもらわなければいけない状況に拍車がかかり、顧客体験の重要性も増しています」