第5回 必要な人材を惹きつける採用の入り口「ブランディング」 小野 裕輝氏 EYストラテジー・アンド・コンサルティング ピープル・アドバイザリー・サービス シニアマネジャー
いまこそ注目したい組織、人事領域のBuzzword。
第5回目では採用ブランディングに焦点を当て、採用時における自社のブランド向上の必要性について解説していきます。
採用ブランディングが“バズった”背景
採用ブランディングという言葉が盛んに取り沙汰されるようになったいきさつを説明するには、時代背景と、それを受けて企業と採用候補者が、どのような行動様式、志向の変容を遂げたかをひもといていく必要があります。
図1のとおり、2010年代以前は、情報チャネルが限られており、テレビCMなどの露出が多い、知名度のある大企業が採用競争力をもっていました。当時、日本企業は既存のビジネスモデルを運用するために、安定的なキャリアや長期雇用を求める採用候補者を「選んで」おり、採用プロセスも選ぶ側の理論で効率化された、新卒一括採用を軸としたものになっていました。
しかしこのような状況がインターネットの高速化や、デジタルデバイス、スマートフォンの普及による情報化社会の実現を契機として一変します。2010年代以降、採用候補者が様々な企業が発信する事業モデルや風土・取り組みなどの情報に触れるようになった結果、そのリテラシーが向上。労働人口の減少もあいまって、採用候補者が企業を選ぶケースが徐々に増えてきました。
採用候補者が選ぶ側に回ったことで、企業は彼・彼女らを「顧客」と見なすようになりました。その結果、企業がもつ風土・理念・事業モデルなどの差別化要因を自ら発信し、採用候補者(顧客)に訴求していくことが、情報化社会を背景に、1つの採用手法として確立されました。現在では、多くの企業がこの手法を取り入れており、広く世の中に認知されるようになっています。
採用ブランディングを実践するということ
採用ブランディングを実践するためには本稿上記の定義のどおり、「自社ブランドの確立」と「採用候補者に対するマーケティング活動」の2つを行うことがポイントとなります。
イメージを想起していただくため、事例を基に説明します。自社ブランドの確立についてはトヨタ社の例がわかりやすいでしょう。ご存じのとおりトヨタ社は世界最大手のモビリティカンパニーの1つです。脱炭素を掲げ、最近もスマートシティ建設の計画を発表して話題になりました。
同社はオウンドメディア「トヨタイムズ」などで、車という特定の商品ではなく、企業理念や社会へのかかわり方を前面に打ち出し、従来の製造業のイメージから、「未来の社会インフラをつくる企業」といったイメージへの転換、浸透を図っています。商品の魅力だけでなく、トヨタ社独自の取り組みを紹介することで、あらたな自社ファンをつくりだすことに成功しました。