OPINION3 手法を入れてパッと解決、とはいかない 今必要なのは、共に“対話”し探究する 職場のマネジメントとマネジャーの意識転換 中村和彦氏 南山大学 人文学部 心理人間学科 教授/NPO 法人OD Network Japan 代表理事
テレワークが前提のWith コロナ時代。
一堂に会しにくい状況下で、組織の力を高めることに難しさを感じる人もいるだろう。
その意味で、組織開発の重要性が高まっている。
そこで組織開発の研究者である中村和彦氏に、困難な状況下でも課題を乗り越え、新しいものやアイデアがどんどん生まれる職場をつくるマネジャーの在り方や、テレワークでの望ましい職場運営等について聞いた。
組織開発とは何をどうするもの?
本題に入る前に、組織開発とは何を行い、何を目指すものなのかをおさらいしておこう。中村氏は次のように語る。
「組織開発では、組織や職場の状態を、より効果的で健全で、より自己革新力をもった状態まで発達させていくことを目指します。具体的には“対話”をとおして、協働と創造性を育んでいきます。現状の課題や自分たちの強みには、普段はなかなか目が向きにくいものですが、対話を行ってそれらを自分たちで発見していき、解決策や取り組みを計画し、実施していく。そういうことを目指すものです」(中村氏、以下同)
テレワークで生じる「適応課題」
そして、新型コロナウイルスの感染を防ぎながらの業務遂行が求められる今、多くの職場が抱える課題を、中村氏は「業界や業務内容、ジョブ型かメンバーシップ型か、ジョブ型でもチームで協働する仕事なのか等、様々な状況や条件で課題も異なるはずですが」と断ったうえで、共通する点を以下のように整理する。
「リーダーシップの研究者ロナルド・A.ハイフェッツは、いろいろと起こる問題には2つの側面、『技術的問題』と『適応課題』があると述べています。技術的問題とは、既存の解決策や知識・テクノロジー・スキルがあれば解決できる問題です。他方、『適応課題』とは、そうした知識やスキルがあるだけでは解決が難しく、人々の思考様式や行動が変わることが必要とされる課題です。
今、テレワークによる働き方のなかでも両方が起こっています。オンライン会議のツールの選択、社員の自宅のネット環境を整える、というのは技術的問題です。一方で、オンライン会議でビデオオフやミュートにしてあまり発言しない人がおり、やりとりが一方向になる、話し合いが深まらない、といったことが適応課題です。こうした人にまつわる課題は、何らかの技術を導入すれば解決するというものでもない。この新たな状況に対して、自分たちでどう対処していくのか、まさに対話をして模索する必要があります」
しかも、そうした人間的な側面はパターン化しがちだ。
「たとえば、オンライン会議で進行している人以外の全員がビデオオフにしているとか、1・2割の人しか会話・発言しないなど、コミュニケーションがパターン化している会議・職場も結構あるでしょう。これは実は早めに手を打たないとノーム(規範)化して、硬直していきます。このことは、テレワーク中心の職場に起こっている、緊急に対処が必要な組織開発的な課題の1つでしょう」
適応課題に対処するマネジャーの力量と伸ばし方
テレワークのマネジメントに限らないが、自分たちの職場やチームをより良くしていくためには、「マネジャーに、適応課題に対処できる力が求められます」と中村氏。具体的にマネジャーがどのようにすれば、適応課題に対処できるのだろう。
「第一歩として、マネジャー自身が、適応課題に対して技術的な方法をポンと当てはめて解決するのは無理だと理解することです。自分たちの話し合いの仕方やかかわり方について、皆で当事者として問題をとらえて探究する。きちんと腹をくくってメンバーと対話をすることで、人と組織をディベロップ(開発)していくことが大事だと認識することです。