学生の可能性を重視した採用への転換 育てたい人材を採る
現在の採用は、コミュニケーション能力重視と言いながら、その実、見栄えの良い人材を探しているだけではないか。そう主張するのは、リクルート出身で、バンダイでの採用担当経験もある常見氏。見かけで判断するのではなく、学生の本当の良さを引き出して育てたくなる人材を見つける方法を聞いた。
求める人材の高度化と学生の下流化
新卒採用は混乱している。経済環境の急激な悪化で採用が大幅に抑制されたからだ。確かに、2010年度の大卒有効求人倍率は1. 62倍まで悪化した(リクルートワークス研究所調べ)。ただし、就職氷河期が売り手市場に変わったと報道された2006年度の有効求人倍率は1. 60倍である。数字だけで見ると2010年度採用も当初は売り手市場だったと言えるのだ。
学生が苦しんだ大きな原因は、実は企業が「質重視」の採用を推進したことにある。単に採用数を減らしたからではなく学生に求めるものが高度化したからだ。
一方で、学生の質は低下している。若者の数が減っているにもかかわらず、大学の数は1992年の523校から2008年には765校にまで増えており、大学側は生き残るために、推薦・AO入試を強化。実に私立大学進学者の約半数はこの方式で、受験戦争を経験せずに入学している。つまり大学と一口で言っても、その質にはかなりの差があるのが実情だ。
しかも、学生はまじめに講義には出るが、姿勢が受け身で、自信もない。携帯電話やインターネットのコミュニケーションに慣れて育ったために、 1対1 で異なる世代とコミュニケーションすることもできない。企業の求める人物像は高度化したが、多くの学生はそれと大きくずれてしまっているのだ。結果として、学生間の「就活格差」が進んでおり内定を5 ~10社取る「内定長者」と、まったく内定が出ない「無い内定」の学生に二極化している。
企業も同じで、学生を採用できる企業と、そうではない企業に二極化している。採用する力は「企業力×採用力」の掛算によって成り立つが、ともに高める努力が必要だと言えるだろう。
“見栄えの良さ”と“質”の違い
昨今の企業の採用は「質重視」の傾向が顕著だが、実際の取り組みについて、私は非常に違和感を持っている。一言で言うと、安易な採用に走っているのではないか。
たとえば、「質重視」を実現するために、単純な学歴差別を復活させている企業がある。同時に、コミュニケーション能力を異常なまでに重視する傾向が一層強まっている。高学歴でもコミュニケーション能力が低ければ就職難民となるのだ。国公立大学の高学歴者はコミュニケーション能力が低いと、賢いのだが会話が不器用だったり、鋭い結論を言い過ぎたりして悪印象ということがある。
ここで注目されるのは「学歴×コミュニケーション能力」だけで採用が決まっていないかということである。昨年からの「質重視」の採用方針は「学歴×コミュニケーション能力」という、極めて安易な採用になる危うさを持っている。確かに、その両方を高いレベルで持った人材を探し出し、入社させることの難易度は上がっているし、そのために各社は努力をしている。人材の奪い合いも起きている。
しかし、「見栄えの良い人材」は別に人事のプロでなくても簡単にジャッジできる。“探す”だけでいいからだ。
また、果たして「学歴×コミュニケーション能力」が高い人材は企業に入ってから活躍したのだろうか。そもそも「コミュニケーション能力」という言葉が人事にも、学生にも、安易に使われ過ぎている。それは実は、口がよく回ること、人当たりが良いことだけを指しているのではないか。私がかつて企業で人事を担当していた頃、採用したこれらの層が入社後に特に際立って、大きく成長したわけでもなかった。
反対に面接の過程であまりにも話し方が不器用で、次の選考に進めるかどうか悩んだ学生をあえて採用したことがある。ぶっきらぼうで、空気を読まないのだが、 発言内容には重みがあり、鋭い着眼点を持っていた。
彼は会社に入り営業に配属されると、同期トップクラスの成長を見せた。厳しい風土の部署でもまれたこと、愛のあるスパルタ上司のもとで育ったこと、元々人の話を聞く姿勢があったこと、そしていわゆるコミュニケーションと言われる“人に伝える能力”は営業の現場で磨かれていったことなどが要因である。面接時にコミュニケーションが苦手でも伸びる人材はいるのだ。逆に言うと、「口のうまさ」だけで採用してはいけないのである。「見栄えの良い人材」を探すのは採用ではない。それ以外の人材に着目することで、採用のブルーオーシャン戦略*をとることができるのである。
今、採るべき人材は「育てたい人材」
それでは、今、どんな人材を採用するべきなのだろうか? それは、「育てたい人材」だ。新卒採用はここに回帰するべきである。
新卒採用は、いつしか企業に入る前から「プチ大人」であることを学生に求めるようになってしまった。なぜ、新卒を採用するのか、その意義を今一度考えて欲しい。
新卒採用とは会社、社会、企業の未来をつくる行為である。未完成の人間を組織に入れ、育てることにより、先輩や上司も、さらには組織全体も成長していくのが新卒採用の意義だ。また、個人が成長する活力こそが組織の成長につながるのである。だからこそ、「育てたい人材」を採用するのだ。