企業事例①アシックス ココロとカラダの健康を守る人事‐保健スタッフの強力タッグ
スポーツシューズ、スポーツウェアなどのブランドで世界的に知られるアシックス。「健全な身体に健全な精神があれかし-“Anima Sana In Corpore Sano”」を創業哲学とする同社では、人事総務部と健康推進室が綿密に連携を取りながら、メンタルヘルス対策に積極的に取り組んでいる。全社員への面談から、スポーツ用品メーカーらしいウォークラリーまで、同社のメンタルヘルス対策を紹介する。
全社員と面談して普段の状態と予兆を把握
長引く不況や競争の激化など、ビジネスパーソンを取り巻くストレス要因は増加する一方だ。いつ、どこの職場でメンタル不調を訴える者が出てきても、何ら不思議はないというのが日本企業の現状である。
スポーツ用品の製造・販売を通して世界の健康に貢献するアシックスであっても状況は同様である。「やはり世間の企業と同じように、少しずつメンタル不調を訴える者が増えてきているなと感じていました」と語るのは人事総務部の和田敏彦氏。人事管理チームの参事として人材配置や育成等を扱いつつ、健康推進室長を務める。
和田氏が統括する健康推進室は、2005年に設立された。上記の状況を受け、保健師、看護師を常駐させて、心と体の健康相談を実施。メンタルヘルス、メタボリック、喫煙への対策を三本柱としている。
健康推進室では、2006年から心療内科医と顧問契約を結び、いつでも社員が相談に乗れるようにしてきた。しかし、そうした体制を整えても社員はなかなか相談に来ない。そこで2008年から、「メンタル不調に悩む社員を少しでも早く見つけて、サポートする」(和田氏)ことを目的に、全社員面談を開始した。役員、管理職、正社員、契約社員、派遣社員、パート社員など、社長・会長を除く全従業員が対象となる。
面談ではまず健康診断の結果をもとに二次検診項目を確認し、通院・受診などの状況をチェック。厚生労働省が指針として出している「職業性ストレス簡易調査票」によって、仕事の負担度や対人関係、職場内の支援度などをヒアリングした。
面談でのポイントについて保健師の宮嵜千鶴子氏は次のように述べる。「面談では、皆さんに必ず健康上の目標を立ててもらうようにしました。それは、たとえば“ストレスに強くなる”でもよいですし、健康な方は“現状維持”でもよいのですが、自分で目標を立て、日頃からそれを意識して仕事をしていただくことが大切なのです」(宮嵜氏)
同社がこの面談を設定したのは、単に社員の健康状況を確認するだけではなく、別の狙いもあったという。「健康推進室を設けても、一度も話をしたことがない保健師にいきなりメンタルの相談をしに行くのは敷居が高いと思うんです。一度、社員一人ひとりと対話することで、それ以降は相談しやすくなるだろうと考えました」(宮嵜氏)