J.H.倶楽部

無断転載ならびに複製を禁じます。なお内容は取材・掲載当時の情報です。

Learning Design 2020年09月刊

特集│OPINION 3 中村和彦氏 手法を入れてパッと解決、とはいかない 今必要なのは、共に“対話”し探究する 職場のマネジメントとマネジャーの意識転換

テレワークが前提のWith コロナ時代。
一堂に会しにくい状況下で、組織の力を高めることに難しさを感じる人もいるだろう。
その意味で、組織開発の重要性が高まっている。
そこで組織開発の研究者である中村和彦氏に、困難な状況下でも課題を乗り越え、新しいものやアイデアがどんどん生まれる職場をつくるマネジャーの在り方や、テレワークでの望ましい職場運営等について聞いた。

中村和彦(なかむら かずひこ)氏 
南山大学 人文学部心理人間学科 教授/NPO 法人OD Network Japan 代表理事

名古屋大学大学院教育学研究科教育心理学専攻後期博士課程満期退学。米国NTL Institute 組織開発CertificateProgram修了。
専門は組織開発、人間関係トレーニング、グループ・ダイナミックス。
組織開発実践者の養成や、様々な現場における実践に携わるとともに、実践と研究のリンクを目指したアクションリサーチに取り組む。
著書に『入門 組織開発』(光文社)、『マンガでやさしくわかる組織開発』(JMAM)など。

[取材・文・写真]=編集部

組織開発とは何をどうするもの?

本題に入る前に、組織開発とは何を行い、何を目指すものなのかをおさらいしておこう。中村氏は次のように語る。

「組織開発では、組織や職場の状態を、より効果的で健全で、より自己革新力をもった状態まで発達させていくことを目指します。具体的には“対話”をとおして、協働と創造性を育んでいきます。現状の課題や自分たちの強みには、普段はなかなか目が向きにくいものですが、対話を行ってそれらを自分たちで発見していき、解決策や取り組みを計画し、実施していく。そういうことを目指すものです」(中村氏、以下同)

テレワークで生じる「適応課題」

そして、新型コロナウイルスの感染を防ぎながらの業務遂行が求められる今、多くの職場が抱える課題を、中村氏は「業界や業務内容、ジョブ型かメンバーシップ型か、ジョブ型でもチームで協働する仕事なのか等、様々な状況や条件で課題も異なるはずですが」と断ったうえで、共通する点を以下のように整理する。

「リーダーシップの研究者ロナルド・A.ハイフェッツは、いろいろと起こる問題には2つの側面、『技術的問題』と『適応課題』があると述べています。技術的問題とは、既存の解決策や知識・テクノロジー・スキルがあれば解決できる問題です。他方、『適応課題』とは、そうした知識やスキルがあるだけでは解決が難しく、人々の思考様式や行動が変わることが必要とされる課題です。

今、テレワークによる働き方のなかでも両方が起こっています。オンライン会議のツールの選択、社員の自宅のネット環境を整える、というのは技術的問題です。一方で、オンライン会議でビデオオフやミュートにしてあまり発言しない人がおり、やりとりが一方向になる、話し合いが深まらない、といったことが適応課題です。こうした人にまつわる課題は、何らかの技術を導入すれば解決するというものでもない。この新たな状況に対して、自分たちでどう対処していくのか、まさに対話をして模索する必要があります」

しかも、そうした人間的な側面はパターン化しがちだ。

「たとえば、オンライン会議で進行している人以外の全員がビデオオフにしているとか、1・2割の人しか会話・発言しないなど、コミュニケーションがパターン化している会議・職場も結構あるでしょう。これは実は早めに手を打たないとノーム(規範)化して、硬直していきます。このことは、テレワーク中心の職場に起こっている、緊急に対処が必要な組織開発的な課題の1つでしょう」

適応課題に対処するマネジャーの力量と伸ばし方

テレワークのマネジメントに限らないが、自分たちの職場やチームをより良くしていくためには、「マネジャーに、適応課題に対処できる力が求められます」と中村氏。具体的にマネジャーがどのようにすれば、適応課題に対処できるのだろう。

「第一歩として、マネジャー自身が、適応課題に対して技術的な方法をポンと当てはめて解決するのは無理だと理解することです。自分たちの話し合いの仕方やかかわり方について、皆で当事者として問題をとらえて探究する。きちんと腹をくくってメンバーと対話をすることで、人と組織をディベロップ(開発)していくことが大事だと認識することです。

次に大事なのは、『自分の考え・やり方が正解ではない』と気づき、部下と対話すること。部下と対話ができないマネジャーは、①“過去の威光さん”:自分の過去の成功経験から自信をもっている、②“すべきさん”:指示や決定を自分がすべきだと自分にプレッシャーをかけている、③“万能であらねばさん”:自分の考えを否定されることや知らないことが判明するのが怖い、などの場合があります。だから他の人の意見に蓋をしたくなる。

しかし、マネジャー自身の傾向(①~③など)を手放して、皆の声をちゃんと聞き、そのうえで『自分はこう思う』と言えるような対話を行います。技術的問題に対しては、マネジャーの①~③の傾向が解決につながることもあります。しかし、適応課題には①~③のあり様は逆効果です。適応課題に対しては、マネジャーに、何が課題でどうしたらいいのかをメンバーと共に考えられる力と姿勢が必要で、指示命令では対処できません」

テレワークでも活性化する職場とそうでない職場の違い

この「指示命令・コントロール」によって管理される職場と、組織開発が機能し、「ディベロップメント」で対処される職場の違いについて、中村氏は図1・2を用いて説明する。

「まず、図1はコントロールされる職場の場合です。縦軸はコントロールの度合いを表していて、一番上が監視・指示される状態、一番下は放任されている状態です。コントロールの度合いが高い職場では、テレワークを導入するうえで、PC のログやPCの前に座っている時間を記録するなど、システムやしくみで監視しようとします。また、マネジャーも、指示命令によって業務を進めようとします。

どんな職場にも、価値観や考えが多様なメンバーがいます。従順な、染まりたがりな人(図1の青色のメンバー)もいれば、自分の考えを優先したがる人(図1の赤色のメンバーなど)もいます。なかでも自由奔放な考えをもつ人たちは、放任状態ではバラバラになってしまいます。そうかといって監視・指示命令状況下では、やらされ感をもち、見せかけでマネジャーや周囲に合わせるだけになる。図1の六角形の中にいるように見せかけながら、実際はバラバラ。『見せかけの秩序』があり、実のところはカオス、という状態です」

他方、組織開発的働きかけがうまく機能している職場はどうか。

「まず、会社や職場の目指す方向性が共有されていることが前提です。マネジャーは、監視や指示命令といったコントロールを手放して、現状での適応課題やどう対処したらよいかをメンバーともに探究する。そうした状況下に多様な人がいて、対話をしていくことによって、お互いに刺激しあえたり、新たな気づきや意味づけが生まれ、図2の真ん中あたりの渦のように、渦状の求心力が自分たちの中から出てきます。

監視と統制によって、図1のように右上に向けた求心力の高まりを目指しても、『見せかけの秩序』がもたらされるだけです。一方で、コントロールの発想からディベロップメントの発想にマネジメント観がシフトすると、内側から強い求心力が生まれます。組織開発的には、図2のマネジメント観がテレワーク状態での、多様性を活かした協働のスタイルだと思います」

渦を生み出す3つの前提条件とは

こちらはJ.H.倶楽部会員限定記事です。
ご入会後、続きをお読みいただけます。

残り:2,495文字

/

全文:4,990文字

【入会・年会費無料】

J.H.倶楽部は人事の仕事に役立つ特典が満載です!

  1. 総数2000本以上の人事の実務に役立つ記事(※)が閲覧可能
    ※専門誌『Learning Design』(旧『人材教育』)の記事
  2. 新サービス・お役立ち情報(調査報告書・ホワイトペーパーなど)の先行案内
  3. 会員限定セミナーへのご招待/講演動画・配布資料の閲覧
  4. 興味関心に沿った必読記事を、メールマガジンでお知らせ!