J.H.倶楽部

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Learning Design 2020年03月刊

特集│OPINION 2 “女性の健康”の視点も忘れずに 「健康経営銘柄」応募企業は急増 PDCAを回し実現する健康経営

経済産業省は東京証券取引所と共同で、2014年度から「健康経営銘柄」の選定をスタートさせた。
健康への企業の意識は高まる一方で、応募企業は近年急増している。
だが本当に大切なのは、自社に合わせた課題解決のためPDCA を回して健康経営を実践することだという。同省の紺野春菜氏に話を聞いた。

紺野春菜(こんの はるな)氏 
経済産業省 商務・サービスグループ ヘルスケア産業課 係長

1989年生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業後、2012年経済産業省入省。
貿易経済協力局資金協力課、製造産業局素材産業課等を経て、現在ヘルスケア産業課にて、企業が従業員等の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践する「健康経営」の推進を行う。

[取材・文]=村上 敬

健康経営は企業価値の向上につながる

いま企業の間で健康経営が広がっている背景にあるのは、“超高齢社会”という現状である。日本の高齢化率(全人口に占める65歳以上人口の比率)は21% 超という世界トップの水準で、社会保障給付費が大きな課題となっているのだ。2016年度の社会保障給付費は118兆円を上回る規模に達した。そのうち医療給付費は、2015年度の39.5兆円から2025年度には約54兆円に、介護給付費は10.5兆円だったところが2025年度には約20兆円になる見通しである。

この問題を解決するためには、健康寿命を延ばして平均寿命との差を縮めていくことが重要だ。それができれば社会保障給付費の適正化にもつながり、最後まで元気に生活することで個人のQOLも高まる。

そこで政府は2014年、「健康寿命の延伸」を日本再興戦略の1つに位置づけ、現役で働いているときから健康を意識すべきという考えから「健康経営」の重視に舵を切った。

企業のなかには、「健康は個人の問題であって自分たちは関係ない」と考えるところもあるが、そんなことはない。働く世代は人生の多くの時間を職場で過ごす。さらに健康経営を行うことで、従業員が明るくイキイキと働けるようになり、生産性の向上やクリエイティブな発想、さらには業績の向上にもつながるとなれば、企業としてはますます「健康は個人の問題」と言ってはいられないだろう。

従業員の健康に取り組む優しい会社だとわかれば、社外からの評価が高まることも見逃せない。実際に推進してわかったのは、就活生や求職者からの評価が高いこと。高度経済成長期から平成の初めごろまでは、「24時間働けますか」というCMが象徴するように、長く働くことが成長に直結する事業モデルが中心だった。しかし、いまはたくさん働いたから利益が出るという時代ではない。働く人たちも身を削りながら働くモデルに疑問を感じていて、そのような会社を敬遠する。特に人手不足が激しい地方ではその傾向が顕著で、健康経営が若い人たちに振り向いてもらうためのきっかけの1つになっている。このように従業員の健康増進に取り組むことは、企業にとってもプラスになる。だからこそ経産省としても、健康経営が企業価値の向上につながることを強調している。

「健康経営度調査」回答企業数は6年で約5倍に

健康経営に対する企業の関心も年々高まっている。経産省と東京証券取引所が行う健康経営の顕彰制度「健康経営銘柄」の選定がスタートした2014年度は健康経営度調査の回答企業数が493社だったが、年々増え続け、2019年度の第6回には、2,328社まで増加した。

健康経営銘柄は、健康経営に優れた東京証券取引所の上場企業を対象に、原則1業種1社の選定となる。他方、より多くの企業を顕彰するため、2016年度から新たに創設した認定制度が「健康経営優良法人」である。これは健康経営に取り組む上場企業だけでなく、非上場企業や医療法人等の団体も対象としている。同時に中小企業の健康経営に対する関心も高かったことから、中小企業向けの健康経営優良法人も設けた。大規模法人部門の認定条件をそのまま中小企業に適用すると難しい面もあるので、中小規模法人部門はハードルを下げている部分もある。

中小規模法人部門は特に急速に普及していて、今年度は申請数が6,095社となり、前年度から倍増した。背景にあるのは、地方の人手不足だろう。最初にお話ししたとおり、健康経営は採用に役立つ面もあると聞いており、地方の中小企業のニーズに合致したのだろう。

健康経営銘柄や健康経営優良法人の選定・認定を受けるフローは図1のとおりだ。健康経営度調査をもとに、その認定基準や具体的な取り組みを紹介しよう。

健康経営の認定基準

まず大切なのは、経営理念である。これまでのように現場の実務レベルではなく、経営者が健康経営の方針をしっかりと示すことが求められる。たとえば社長がメッセージを発信したり、統合報告書でページを割いて健康経営の取り組みを掲載するといったことが考えられる。

もちろんトップが笛を吹くだけで健康経営が実現するわけではない。健康経営が機能するための組織体制も必要だ。産業医との関係を構築できているか、保健師や看護師を雇っているか、健診のデータをもっている健保など保険者との連携(コラボヘルス)はできているか、といったことが問われる。

社内向けの制度や施策は、多岐にわたる。定期健診をきちんと行うのは当たり前で、有所見だった場合に再検査を受けやすい体制になっていることも必要だ。また50人以上の事業場はもともとストレスチェックが必須だが、健康経営では50人未満の事業場でも実施が求められる。

意外に見逃されがちなのは、「病気の治療と仕事の両立の促進」に向けた取り組みだろう。健康経営を進めるうえで「健康な人を雇えばいいんだろう」と勘違いしてしまう可能性もありうるが、重要なのは、「病気の人であっても幸福に働けること」である。病気を抱えている人でも仕事と両立できるようなサポートのしくみは欠かせない。

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