J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2016年08月号

SPECIAL OPINION “休むため”から“ 働くため”の両立支援へ 育児中の女性をひとくくりにしないで! 働く女性が本当に望む支援とは

「現在の日本企業では、両立支援制度が充実していることで、かえって意欲のある女性がやる気をなくしてしまうことがある」―。そう指摘するのは、自身も仕事と子育てを両立する、女性活用ジャーナリストの中野円佳氏。女性活躍推進のミスマッチは、なぜ起きるのか。
著書『「育休世代」のジレンマ』でこの問題を社会に知らしめた中野氏に、育児中のワーキングマザーの本音と問題解決のヒントを聞いた。


中野円佳(なかの まどか)氏
女性活用ジャーナリスト・研究者/株式会社チェンジウェーブ ダイバーシティ& インクルージョンデザイナー

1984年東京生まれ。東京大学教育学部卒業後、日本経済新聞社へ入社。第1子の育休中、立命館大学大学院先端総合学術研究科に入学。
同大学院に提出した修士論文を『「育休世代」のジレンマ』として出版し、2015年に日本経済新聞社を退社。現在、株式会社チェンジウェーブにて企業のダイバーシティ推進を手掛けながら、女性活用ジャーナリストとして活躍する。
〔取材・文〕=富田夏子  〔写真〕=編集部

変わり始めた企業側

育児中のワーキングマザーを取り巻く環境は、この5年程度でも大幅に変化していると感じる。

まず、私も含め2010年ごろまでに出産した総合職女性はまだ企業の中ではマイノリティだったと思う。企業側の「無配慮」により出産前と同じ働き方を求められ、辞職せざるを得ない事例も多かった。または、育児中の社員だからもっと負担の少ない仕事に変えたほうがいいだろう、というような「過剰な配慮」により、以前のようなやりがいのある仕事をすることができず、「何のために子どもを預けて働いているのか」と疑問に感じ退社するパターンもあった。働き続けるには、自身の意欲を冷却し、「第一線で働けないことは仕方がないことだ」と気持ちをコントロールしなければならない。しかし、そうすると今度は評価されづらい悪循環で「マミートラック」に追いやられていく(図1)。

最近は、育児中でも働き続ける女性社員が増えてきて、衝動的に辞める社員は減っているといえるだろう。総合職などでも出産する女性が増える中、安倍政権による女性活躍推進の施策や人手不足の環境も後押しとなり、企業側の意識も変わってきている。親かベビーシッターをフル活用しながら家庭と仕事を両立させる、いわゆる“バリキャリ”ではなくても、働き続けられる時代にはなってきた。

だが、意欲のある女性が、やりがいを感じられない仕事にフラストレーションを抱える状況は、むしろ強化されている印象もある。特定の部署にママ社員が溢れていたり、支援制度を使いながら働く女性に対して他の社員から不公平感が生まれたりして、企業側も対応に困っている。

時短取得による職場のあつれき

●長時間労働者が抱く不公平感

産休、育休を経て職場復帰した女性社員の多くは、時短勤務制度を利用するか、定時で帰るようになる。そのため、残業ありきで働く社員が時短で働く社員の仕事をカバーするケースが生まれ、不公平感を抱く原因となってしまう。企業により子どもが3歳になるまで、小学校3年生までなど、時短勤務を取得可能な期間はさまざまで、その期間は給与が下がる企業が多く、彼女たちは昇給が望みにくい。ところが、周囲の社員は、時短勤務がフルタイム勤務より1時間早く帰ることで給料が少なくなっていることを知らないことが多く、不公平感につながりやすい。

その不公平感を解消するためには、他人の仕事をカバーしている社員のモチベーションアップにつながるような報酬の上乗せやボーナス支給などの賃金体系の見直しが考えられる。だが、そのためには会社側が、勤務時間だけでなく個人の仕事量や生産性を把握しなければならないし、実際は給料は年次によっても変わるため、実現はなかなか難しい。結果、常に定時で帰る社員や時短社員の評価を相対的に下げることとなり、育児中の女性社員が長期的に昇進できないという現象が生まれる。

「育休、時短、もらえるものはもらってラクに働こう」とばかりに、あまり貢献はしていないにも関わらず最大限権利を行使しようとする社員もいないわけではない。実際、周囲に仕事を押し付けて早く帰り、感謝の気持ちもない社員の話も聞く。しかし、どうせ昇進できない、時短にする理由を分かってもらえない、といったあきらめが、そのような行動を生み出していることもある。また、ワーキングマザーに限らずそういう人は一定割合いるわけで、ひとくくりにしないでほしいということは伝えたい。

●時短を取るワーキングマザーの事情

時短を取得しているワーキングマザーは、制度にぶら下がりマミートラックにはまっていると思われがちだが、実は人それぞれの事情がある。取材をすると、子育てのリズムもつかめて本当は定時まで働けるにも関わらず、時短勤務を申請し続けているママも一定数存在する。一度時短勤務に慣れてしまうと、子どもを早くお迎えして一緒に過ごす時間を手放すのが惜しく、慣れた生活パターンを崩したくなくなってしまうことが時短を解除しにくい一因だ。私自身も第2子の育休中は上の子も早いお迎えを喜ぶし、買い物や夕食づくりの時間も取れて貴重な時を過ごしていると感じた。

一方、時短勤務のため給料も低いのに、結局は定時まで働いてから帰るママもいる。周囲が残業ありきで仕事をしているため、申し訳なさから自ら給料を下げるため時短を申請しているケースもある。

時短で働くワーキングマザーの思いはさまざまだが、皆が共通して抱えるのは「フルタイム勤務に戻った途端、長時間労働に逆戻りしてしまうのでは?」という不安だ。本当は定時まで働けるしモチベーションもあるが、毎日残業はできない。したがって、モヤモヤしたジレンマを抱えながら、このまま第2子の出産や小1の壁(※)などに備えよう、と自分を納得させ、時短で働き続ける女性は多い。このように、本当はもっと働けるのにというジレンマを抱えた人材を活用しきれずにいるのは、企業にとっても大きな損失ではないだろうか。

※ 保育園ならば延長保育があり子どもを遅い時間まで預けられるが、小学1年生からの公的な学童保育は通常18時で終わってしまう。そのため、子どもの小学校入学を機に働き方の変更を迫られる女性は多い。

●資生堂ショックに見る解決策の一例

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