OPINION1 生産性と健康の両立が次世代のスタンダード エンパワーメントを加速する健康経営 岡田邦夫氏 健康経営研究会 理事長
「健康経営は特別なものではありません」。そう語るのは、産業医で健康経営研究会理事長の岡田邦夫氏。
「健康経営銘柄」や「健康経営優良法人」など、ブランドのイメージが強い健康経営だが、
健康経営が目指すところは何なのか。これから取り組むには何から始めればよいのか。
岡田氏に基本となる考えを聞いた。
健康への投資効果に注目せよ
私が理事長を務める健康経営研究会は、2006年にNPO として立ち上げた。もともとは高齢社会対策基本法の制定にあたり、労働生産人口の減少と高齢社会の到来を見据えたとき、日本企業の未来はあるのかという危惧から始まった団体だ。当時は“健康経営”と訴えたところで、企業からは見向きもされなかったが、それから十数年たち、健康経営は研究会を発足したころに我々が想像していた以上の盛り上がりを見せている。
契機となったのは、政府が成長戦略の一環として健康経営を取り入れたことにある。経済産業省と東京証券取引所が共同で「健康経営銘柄」の選定を始めたことで、一気に活発化したのである。取り組みは大企業だけでなく中小企業や、地方では自治体がリードする形で広がっている。
ここで一度、健康経営について定義しておきたい。私たちの組織では、「『企業が従業員の健康に配慮することによって、経営面においても大きな成果が期待できる』との考えのもとで、健康管理を経営的視点から考え、戦略的に実践すること」としている。健康経営による経営面の大きな成果とは、大きくは「医療費の削減」と「労働生産性の向上」だ(次ページ図1)。仮に従業員の健康増進に1億円かけたとしよう。それにより従業員の病気やケガ、メンタル不調が減少し、負担する医療費が(健康保険組合を通すため間接的ではあるが)5,000万円削減できたという場合、それでは5,000万円のマイナスではないか、と考えるかもしれない。
だが心身が健康になれば、生産性の向上にも大きな効果がある。従業員が休まなくなり、働いている間も高いパフォーマンスを発揮できるようになった結果、これまでより2億円分生産性が上がったとしたらどうだろう。差し引きで1億5,000万円の収益増につながったことになる。逆に売上・利益最優先で従業員の健康は二の次で働かせたとしたら、直近の利益は出せたとしても長くは続かない。いつかは従業員が体を壊し、治療による長期離脱や退職などで大きな損失を被るからだ。
医療費と生産性の課題国・日本
日本の企業はどうして健康経営に取り組む必要があるのか。それは先に健康経営の定義で述べた、“医療費”と“生産性”の両方に深刻な課題を抱えているからである。
医療費については、社会保障の持続性がかねてより問題視されていることは周知のとおりだ。超高齢社会の日本では、健康寿命を高い水準で維持することが大きな課題である。70歳定年が当然となる今後を考えても、企業が従業員の健康増進に取り組むことが求められているのである。若いうちから脂質異常症、糖尿病、高血圧など、生活習慣病のリスクを抱えている場合ではないのだ。