J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2017年08月号

OPINION3 若手社員にもジェロントロジー教育を 周囲の理解と柔軟な体制で シニアが活躍できる職場に

シニア社員が雇用延長で働き続ける場合、周囲の理解や気遣い、
作業環境が、シニアの働く意欲に大きく影響する―そう話すのは、
ジェロントロジー(老年学)を専門とする崎山みゆき氏だ。
シニアにはどのような特徴があるのか。また、意欲的に働いてもらうために効果的なこと、
注意すべきことは何か、話を聞いた。


崎山 みゆき(さきやま みゆき)氏
日本産業ジェロントロジー協会 代表理事/自分楽 代表取締役

桜美林大学大学院国際学研究科修士、サンフランシスコ大学学術博士。産業カウンセラー、健康管理士。2000 年大学院在学中に老年学を学ぶ。2003 年自分楽を設立、代表取締役に就任。2010 年から静岡大学大学院事業マネジメント専攻客員教授。主な著書に『60 歳新入社員の伸ばし方、活かし方』(労働調査会)、『シニア人材マネジメントの教科書―老年学による新アプローチ』(日本経済新聞出版社)など。「60 歳新入社員倶楽部」主宰。


[取材・文]=佐藤鼓子 [写真]=編集部

多角的な老年学の視点を

高齢者というだけで、知識・経験が豊富だから優れている、あるいは気力や体力の衰えが目立つから役に立たない、と見なされることが多々ある。このような年齢による差別をエイジズムという。

エイジズムには「偏見」と「制度」の2つがある。前者には高齢者を弱い、幼い、頑固などと捉えるもの、後者には高齢者が働けないような年齢制限や昇給できない仕組みが挙げられる。

肯定的なエイジズムとしては、年長者を組織の長とするべきという年功序列的な考え方や、高齢者は若者より穏やかで優秀だという見方が該当する。

しかし必ずしも全員がそうであるはずがない。高齢者はひとくくりにできるものではなく、個人差があるのは当然のことだ。だが、日本では高齢者に対する理解が十分ではないため、思い込みによるエイジズムが激しいと考えられる。

したがって、職場においても、まずはシニア人材について周囲、そしてシニア本人が正しく理解する必要がある。シニアを雇用する際も、活かすべきはどんな特徴でどんな点に注意すればよいのか、客観的でフラットな見方ができるようにならなければならない。

そこで役に立つのがジェロントロジー(老年学・加齢学)の視点である。これはギリシア語の「老齢」を意味する接頭語geront(o)と、「学問・研究」を意味する接尾語logyを合わせた言葉だとされており、医学や生理学、社会学、心理学、栄養学などの多角的な知見から、加齢に伴う生涯発達や人間関係、政治経済などの課題を総合的に捉える学問だ。

シニアが活躍できる職場をつくるには、このジェロントロジーの理解が欠かせないだろう。そこでまず、ジェロントロジーの視点から、知っておくべきシニアの特徴やリスクとその対応策を紹介したい。

①身体的特徴と対応策 本人が自覚し、対処法を共有

年齢を重ねると、どうしても身体面の衰えは出てくる。例えば骨粗しょう症のリスクが高まり、骨折しやすくなる。視力や聴力、また記憶力の低下により、ミスが増える傾向もある。さらに加齢と共に敏しょう性が低下し、作業場などでは事故の危険性も高くなる。危ないと気づいても避けられず、落下物でケガをしたり、足を踏み外したり、高所から転落したりするリスクもある。

このような身体面の衰えによるリスクには、どのように対応すればよいのか。まずはシニア本人が自分ごととして、体力の低下・衰えを自覚し、過信せず慎重に行動すること、またミスやケガを防ぐ具体策を講じることが重要だ。研修などで本人に自覚を促すことに加え、起こりうる業務上のリスクと対処法を職場であらかじめ整理し、共有しておくとよいだろう(図1)。

視力・聴力の低下で増えるミスに対しては、日常業務における資料の伝え方の工夫で防ぎやすくなる。文字の大きさは12ポイント以上が好ましい。聴覚は必ずしも両方同時に衰えるわけではないので、聞きやすい側に立って話し掛けるのもひとつの方法だ。例えば上司は、部署のメンバーの机を意識的に巡回しながら声を掛けるとよいだろう。早ければ40 代から始まる加齢性難聴では高音が聞き取りづらくなるので、特に声が高い人はゆっくり大きな声で落ち着いて伝えるとよい。

そもそも人が物事を判断する際は、理性が2割、感情が8割影響するという。文字が小さくて読みづらい資料、聞き取りづらい高い声でのコミュニケーションでは、シニアは不愉快になり、いくら必要な情報でも見たり聞いたりするのを拒否したくなる。周囲がさりげなく配慮し、スムーズに情報を伝え合う環境を構築したい。

記憶力の低下に対しては、メモ帳を用意し、仕事の指示は1つずつ出すようにする。確認は2度行う。個々の能力を問わず、職場でルール化すれば、シニア本人が傷つかず、円滑な意思疎通の体制がつくれるだろう。

敏しょう性の低下についても、研修などで本人の自覚を促す必要があるだろう。若い頃と同じ感覚でちょっと跳んだら骨折してしまった、というような事例も聞くが、加齢によるケガには労災が認定されないことが多いので注意すべきだ。また、前日の疲れがなかなかとれないというのもシニアの特徴なので、作業現場などでは朝のラジオ体操よりも、就業後の整理体操こそ取り入れてほしい。

②メンタルヘルスと対応策 無理のない柔軟な働き方を

精神的には、経験の積み重ねと共に成熟し、感情の起伏は緩やかになる。一方で、ストレスの影響が身体症状に出やすく、身体の好調、不調の波が若い人より大きい。基礎疾患や成人病を患う高齢者は多いが、このような身体の不調もストレスにつながる。

人間の身体はホメオスタシス(生体恒常性)という機能を有し、自律神経系と内分泌系、免疫系の3つの働きがバランスを保つことで健康を維持しているという。基礎疾患を有すると、免疫力が低下しているため、流行りの病気にかかりやすく、かつ治りにくくなる。結果として業務上のミスや遅れが生じ、精神的なダメージにつながることも多く悪循環になりやすい。

したがって、若年層のストレス管理ではうつ病対策が必須だが、シニア人材については基礎疾患や免疫力の低下への対策も重視すべきだろう。

対策のひとつは、柔軟性のある働き方をすることだ。例えば翌日まで仕事の疲れが残ると、朝の遅刻が増え、前日と同じ作業でも効率が落ちる可能性が高い。残業を減らし、フルタイムにこだわらない働き方をすれば、身体的にはもちろん、精神的な負担も減る。歳を取るほど心身全体で健康のバランスを保ち、身体的側面も含めたメンタルヘルスを重視する必要があるのだ。

③学習能力と対応策 結晶性能力を活かした役割を

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