J.H.倶楽部

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Learning Design 2020年01月刊

特集2│OPINION2 自発性や主体性を高める 「個人」だけでなく「組織」も成長するための ジョブ・クラフティングの在り方とは

個人の取り組みとしてとらえられがちなジョブ・クラフティング。
これを組織の成長やエンゲージメント向上につなげていくためにはどんなことが必要なのだろうか。
組織開発に詳しく、ジョブ・クラフティングについても様々な発信をしている、高尾義明氏に聞いた。

高尾義明(たかお よしあき)氏
首都大学東京 大学院 経営学研究科経営学専攻 教授

1967年生まれ、大阪市出身。京都大学教育学部で教育社会学を専攻。同大学卒業後、神戸製鋼所に就職。東京本社でアルミ・銅事業本部経営企画部で4年間勤務。
その後、同社を休職して京都大学大学院経済学研究科修士課程に入学し、経営学を学び始める。博士課程への編入試験合格を機に同社を退職し、組織論研究者への道に専念。
九州国際大学経済学部専任講師、流通科学大学情報学部専任講師・助教授を経て、2007年4月から首都大学東京大学院社会科学研究科経営学専攻准教授。2009年4月より同教授。

[取材・文]=菊池壯太

ジョブ・デザインとジョブ・クラフティング

ジョブ・クラフティングという言葉が、日本のHR 分野で知られるようになってきたのは、ここ1~2年のことだ。それ以前から、仕事を人間らしく経験し、モチベーションを保つための取り組みを表す言葉として、「ジョブ・デザイン」がある。両者の違いについて、首都大学東京大学院経営学研究科教授の高尾義明氏は次のように話す。

「従業員が内発的なモチベーションを高めるための方法として、1970年代から使われ始めた言葉が、ジョブ・デザインです。ただし、これは基本的な考え方として、部下のモチベーションを高めるための施策をマネジャーがつくって与えるという、いわば『上から目線』のものでした。これに対してジョブ・クラフティングは、マネジャーのもとで働いている人もそうでない人も、自ら仕事をクラフト、つまり、つくりあげて主体的に仕事にかかわることによって、モチベーションを高め、やりがいを見つけることを目的としています」

ジョブ・デザインは、考えようによっては「やらされ感」がつきまとうが、ジョブ・クラフティングは、もっと内発的かつポジティブに人をとらえていることが特徴だ。

なお、このコンセプト自体は、2000年代初頭にアメリカで提唱され、組織と個人の行動をポジティブな視点からとらえようとする「ポジティブ組織行動」という大きなムーブメントのなかで表出してきた。

ジョブ・クラフティングによる仕事のとらえ方

ジョブ・クラフティングの原点の1つは、病院の清掃スタッフの仕事のとらえ方に関する研究に由来するという。病院で「清掃する」という仕事は、「自分の担当する場所をきれいにする」ことだととらえるのが一般的だ。だが、「患者さんの治癒の手助けをしている」と、自分の仕事をもっと拡大的にとらえている人が少なからずいたという。清掃というタスク自体は変化することがなくても、たとえば病室の清掃をする際に患者さんにかける言葉をよりポジティブなものに変えたり、患者さんのことで気づいたことを看護師に伝えたりすることはできる。そのことを「治癒の手助けをしている」ととらえたわけだ。

「自分のタスクをきちんと遂行するという前提がありますが、病院の清掃スタッフのように、自分なりに『こういう意味がある』ととらえることができれば、一見同じことをしていても、仕事の見方を変えるという認知的なジョブ・クラフティングをしたことになります。これは、発想が飛躍しすぎているようにも思えますが、ジョブ・クラフティングという見方に立てば、治療や薬の処方を行うわけではない清掃スタッフが患者の治癒に一役買っているととらえることは、間違っていないのです。一方で、『仕事はあくまで生計のため。その範囲内で自分なりにやり方を工夫する』ことがジョブ・クラフティングに当てはまらないわけではありません。要は、『自分で決められる』ということがポイントです」(高尾氏、以下同)

ジョブ・クラフティングの喚起が重要な職種・階層とは

ジョブ・クラフティングを職種や階層別に考えた場合はどうか。高尾氏によると、自発性や創造性が普段から求められるデザイナーのような仕事は、日常的に自分の仕事をクラフトしているようなものなので、ジョブ・クラフティングを意識する必要性は薄い。それに対して、生産やサービスの現場などで繰り返しの作業を何時間も続けるような職種では、自分の仕事をどう面白くするかと考える必要性は大きくなるという。

階層についても、タスクの範囲がきっちりと決まっていたり、ルーティンの仕事が多かったりする段階では、マンネリを打破したり、仕事を面白くするにはどうすればいいかということが自身の課題として見いだしやすい。一方、階層が上がると、権限が大きくなり、裁量権が増えるため、ジョブ・クラフティングをあえて意識する必要性は薄れていく。つまり、制限があると思えるような職種や職位の人の方が、ジョブ・クラフティングのしがいがあるということだろう。

ただし、新入社員のように自分のやることだけで精一杯という状態では、ジョブ・クラフティングは成り立ちにくい。ある程度は経験を積み、職務の自律性が高くなっているという前提が必要だろう(図1)。

取り組みにおける「拡げる」「狭める」という視点

ジョブ・クラフティングにおいて、仕事は「タスク」と「人間関係」で成り立っているという基本認識がある。そのうえで具体的にどう取り組めばよいかというと、①仕事のやり方の工夫、②周りの人との関係についての工夫、③仕事についての考え方の工夫の3つが基本となる(42ページの櫻谷あすか氏の記事参照)。

この3つに加えて、これらを「拡げる」あるいは「狭める」という区別も意識する必要があると、高尾氏は指摘する(次ページ図2)。

「仕事や人間関係を『拡げる』というのは、病院の清掃スタッフの例のように、仕事の意義そのものをとらえ直すということもあるし、具体的なタスクを改善し、より自分に合ったやり方を採用するというのも当てはまります。人間関係についても、周囲の人との関係性を密にしたり、異職種の人との接点を増やしたりすることが挙げられます。

一方で、自分の関心に合わない仕事は極力やらないようにしたり、人間関係にしても苦手な人とはなるべくコンタクトを避けるといった『狭める』ことも、定義上ジョブ・クラフティングに含まれます」

それに関連して、ジョブ・クラフティングは必ずしもポジティブな効果ばかりではなく、ネガティブな効果をもたらす可能性があることも認識する必要があるという。

「自分だけがやりやすい方法を追求しすぎると、他のメンバーにとっては、かえって仕事がやりにくくなることも出てくるかもしれません。また、その人にとってだけ快適な人間関係になってしまうと、情報が入りづらくなったり、他部署との連携がうまくいかなくなったりすることもあります。自分にフィットすることだけを極端に追求されてしまうと、組織のためにならない部分が出てくる可能性があるのです。こうしたジョブ・クラフティングは、結果として、その人の業績やエンゲージメントに関してマイナスに影響することがわかっています」

ジョブ・クラフティングとは、個人的な取り組みではあるものの、このようなネガティブな側面も踏まえたうえで、組織やマネジャーのフォローが必要とされる。

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