J.H.倶楽部

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Learning Design 2020年01月刊

特集1│CASE2│ 三井化学 素材はクリエイティビティの源泉 素材とデザインのコラボレーションの場 MOLpで生まれた新たな価値とは

三井化学の有志団体「MOLp」は同社の機能的価値と感性的な魅力を再発見しようという組織横断型の活動。
素材とデザインを掛け合わせた新たな視点から、多様な提案を生み出している。
MOLp の活動により変わったこと、また、デザインの力について話を聞いた。

松永有理氏 三井化学 コーポレートコミュニケーション部 広報グループ 課長

三井化学株式会社
1912年九州・大牟田で創業した化学メーカー。
1997年、三井石油化学工業、三井東圧化学の合併により現在の三井化学に。
モビリティ事業やヘルスケア事業、フード&パッケージ事業、基盤素材事業を軸に、世界約30の国と地域、150のグループ会社を擁してグローバルに事業を展開する。
資本金:1,252億9,800万円
連結売上高:1兆4,829億900万円(2018年度)
連結従業員数:1万7,743名(2019年3月31日現在)

[取材・文]=平林謙治

素材×デザインの可能性

様々な製品の原料になる「素材」を扱う三井化学。素材というと、その機能ばかりが重視されがちだが、そうではなく素材の感性的な面に目を向け、新たな価値を生み出していこうという有志団体が2015年、社内に立ち上がった。それが、素材の魅力ラボ「MOLp(Mitsui Chemicals MaterialOriented Laboratory)」である。

発起人である、同社コーポレートコミュニケーション部の松永有理氏は、立ち上げの目的をこう振り返る。

「MOLp は、弊社の素材と技術の機能的価値や感性的な魅力を再発見し、そのアイデアやヒントをシェアしていくための組織横断型のオープン・ラボラトリー活動です。素材は社会や人のくらしを陰ながら支える黒子のような存在で、我々もそこに誇りをもっているのですが、黒子だからこそ価値や魅力は伝わりにくい。また、素材にコンセプトがあっても、それが末端まで伝わっていかないのです。その問題はコミュニケーションにあると考え、コミュニケーション変革を通じて自分たちの仕事の価値を再認識したり、社内外に発信したりできる場として立ち上げました」

MOLp が「デザイン」をテーマに据えたのは、デザインがもつコミュニケーション機能に着目したことと、素材メーカーとその対極にあるデザインとをコラボレートさせることで、新しいものが生まれる可能性が高いと考えたからだ。

「素材の価値といえば、まず機能面が求められますが、今のモノづくりは技術そのものよりもコンセプトメイキングが生み出す価値の方が大きく、素材も機能だけでは選ばれにくくなってきました。そこで、デザインの力を活用して、素材がもつ機能的な価値だけでなく、より感性的な魅力まで『見える化』して伝えることができるのではないか、という目的もありました」(松永氏、以下同)

デザインシンキングのアプローチで活動

メンバーは社内有志で構成され、技術・非技術系あわせて20~30名ほど。月に半日、業務時間内に活動を行うが、就業時間後や休日に活動することもある。強制力はなく、参加したい人は参加すればいい、辞めたい人は辞めるという、まるで部活のような、ゆるく自由度の高い場だ。

MOLp を様々なコミュニケーションとアイデアが生まれる場とするため、仕掛け人の松永氏はクリエイティブパートナーとして、デザイナーの田子學氏(OPINION3)を迎え、プロジェクトの求心力を高めた。

「まずは田子さんからデザインの視点やフレームワークを学び、自分たちの業務についてより良く伝えられるように訓練しました。たとえば、研究者はふだん素材を、何度で溶け出すか、何度で柔らかくなるかといった物性の視点からしか見ていません。でも、それでは素材の紹介として面白くない。魅力が伝わらないんです。ですから、素材も感性やデザインの視点でとらえる田子さんの発想は、研究者たちにとってかなりの衝撃でした」

MOLpの場は、①デザインシンキングを学び、実践する②コミュニケーションの仕方を学び、実践する③プロジェクトマネジメントの回数をこなす、という3つのコンセプトを掲げている。立ち上げ当初は、夏合宿でデザインマネジメントやデザインシンキングについて学ぶ機会を設けたり、その後の活動でも、自社の製品でどんな魅力がアピールできるのか、ディスカッションを重ねるとともに、実験や試作を繰り返した。

「具体的にモノづくりを行う過程では、デザインシンキングのアプローチでもある、『ラピッドプロトタイピング』を重視します。特に化学の世界では何年もかけて1つの製品をじっくりと開発するのが常ですが、それだけではないアプローチも体験してほしいという思いがありました。また、プロジェクトの数も多く立ち上げています。強引にプロジェクトを回していくことで、みんな勘所がわかってくるところもありますからね」

仮説→試作→検証という開発サイクルを素早く回し、「こんなものを作ってみたんだけど」とアイデアを公開しディスカッションを重ねることで、アイデアがさらに深まったり、別のアイデアとつながっていく(図1)。そのような過程を踏みながら、MOLpはこれまで様々な製品を生み出してきた。そのひとつ、「NAGORI® 樹脂」(次ページ写真)を紹介しよう。

コンセプトも含め“どう伝えるか”がデザイン

NAGORI® 樹脂とは陶器のような質感をもちながら割れにくく、高い加工性がありデザインの自由度を拡げる新しい素材だ。

「もともと樹脂が専門ではない研究者の『プラスチックの皿で食べる食事って、すごく味気ないよな』という一言から始まりました。子どもにごはんを食べさせていて、そう感じたそうなんです」

プラスチックの食器は、「軽くて割れにくい」という機能性はあるが、確かに味気ない。感性的な価値がともなわれていないのだ。そうしたプラスチックの常識を覆す、陶器のような質感と重量感、高い熱伝導率を併せもつのがNAGORI® 樹脂である。また、NAGORI の成分には、海のミネラルが含まれている。現在、海水を淡水化する設備が世界中で稼働しているが、海水から淡水を抜いた後、残ったミネラルの濃縮水はそのまま海に廃棄され、環境悪化のリスクとなっている。NAGORIは、この不要な濃縮水を有効活用するという発想だ。

「不要な濃縮水でつくったプロダクトで淡水化した水を飲んだらサステナブルを身近に感じられるよね、でも今はビール飲みたいよね!と皆で盛り上がり、コミュニケーションのための形状はビアタンブラーにしました。『海から生まれたプラスチック』や『社会への貢献』といったストーリーを素材の新たな魅力として打ち出しています。これも、この商品の重要なコンセプト。そういうことも含めて、エコサイクルをどのようにつくっていくか、パッケージなどを通してどのように伝えていくか、というところまで一貫して行っていくのが『デザイン』であり、大切なのは単なる形や色ではないと思っています」

製作にあたっては、まさにデザインシンキングのアプローチを実践した。エスノグラフィーを通して課題やニーズを発見・確認し、つくって変えてつくって変えてというラピッドプロトタイピングを実践していったという。

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