J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2015年04月号

CASE.1 GE リーダーシップのOS(基本ソフト)を身につける 修羅場体験で鍛える「適応力」と「人間力」

「世界最強企業」といわれるGE(ゼネラル・エレクトリック)社には、トップ15%の人材しか受けられないリーダーシップ研修がある。
日本人として唯一、同社のリーダーシップ研修の責任者を務めた田口力氏に、「成長し続けるグローバル企業」が重視しているリーダー教育について聞いた。

田口 力(たぐち ちから)氏
1960年、茨城県生まれ。元GEクロトンビル・アジアパシフィック プログラム・マネジャー。TLCO代表取締役。1983年早稲田大学卒業。政府系シンクタンク、IT企業の企業内大学にて職能別・階層別研修や幹部育成選抜研修の企画・講師などに従事。2007年GE入社。「クロトンビル」で、日本人として唯一リーダーシップ研修を任される。日本・アジア太平洋地域の経営幹部育成プログラム責任者として研修を企画・開発・実施。近著に『世界最高のリーダー育成機関で幹部候補だけに教えられている仕事の基本』(KADOKAWA)。

ゼネラル・エレクトリック
General Electric Company、略称、GE。1878年にトーマス・エジソンが創業した世界最大のコングロマリット(複合企業)。本社は米国コネチカット州。ニューヨークにあるジョン・F・ウェルチ・リーダーシップ開発センター(通称クロトンビル)は世界最高のリーダー育成機関として知られる。
資本金:1305億6600万US ドル、連結売上高:1460 億4500万USドル、連結従業員数 :30万6000人(2013年度)

[取材・文]=中津川詔子 [写真]=編集部

● 精鋭教育の基本 行動規範に沿って成長させる

ニューヨークにあるGEのリーダー養成機関、ジョン・F・ウェルチ・リーダーシップ開発センター(通称クロトンビル)は、全世界の企業から注目を集める存在である。

従来は幹部育成の色合いが強い組織だったが、CEOに就任したジャック・ウェルチ氏(前GE会長)が1982年に大改革を行い、リーダー育成に特化したプログラムを提供するようになった。この時、ウェルチ氏が経営戦略部門を撤廃したのは有名な話だ。

彼が残した「戦略は、現場のビジネスリーダー全員が自ら考えるべき」という強烈なメッセージはそのまま継承され、同社には今も経営戦略に特化した部門は存在しない。そのベースにあるのは、「全てのビジネスパーソンは、2ファンクション(財務と人事)のトップと共に自ら戦略をつくる」という考え方だ。

そんな環境下では、ひとりの極めて優秀なリーダーに周囲がついていく「カリスマ型リーダーシップ」ではなく、社内のあらゆる部門、セクションにリーダーがいて、周囲を巻き込んで成長していく企業文化が促進されていく。

GEのカルチャーを理解したうえで入ってくる人材はそもそも優秀なのだが、クロトンビルのリーダーシップ研修を受けられるのは、中でも選りすぐりの人々である。具体的には、各バンド(役割等級)のうち、トップ15%くらいまでの評価を得ていることが条件だ。

日本の大企業では、全ての社員に階層別教育を施すが、GEでは選ばれた精鋭のみ。そのほうが参加者のモチベーションが高くなり、費用対効果もよいことが経験上わかっているからだ。

ここで行われるリーダーシップ教育は言葉にすればごく単純で、拍子抜けするほど基本的なスキルと心構えが大半である。だが、どれも単純であるがゆえに奥が深く、なかなか実践できないことでもある。

スキルについても、リーダーが持つべき規範「GEバリュー」(図1:現在はGE Beliefs)と関連させて展開していく。

この考え方は人事評価でも一貫している。リーダーをはじめ、社員の評価は年間の業績達成度の他に、「GE バリュー」をいかに発揮できたかによって決まる(図2)。

どんなに業績を上げた社員でも、「GE バリュー」を発揮できなかった人材は「要改善」の対象となる。さらに、行動規範に沿って高い業績を上げた社員も、周囲の期待値を上回って成長し続けない限り、評価が下がっていく。現状維持だけでは不十分というわけだ。ここが同社の厳しさであり、やりがいを生む源泉でもある。

私が研修に参加するリーダーたちに口を酸っぱくして伝えているのも、「ビジネス環境の変化に備えて、常に自分を進化させよ」というメッセージだ。

● 飛躍的な成長のカギ 人為的に修羅場を与える

GEが「環境の変化」を強く意識するようになったきっかけは、2008 年9月15日のリーマンショックである。現会長兼CEOのジェフリー・R・イメルトが、「World has been reset(世界はリセットされた)」と言い、全世界の社員が「一寸先は闇だ」と震撼した。そんな状況を受け、リーダー育成の方向性は大きく変わった。「Leading in timesof uncertainty(不確実で曖昧な環境下でも、リーダーシップを発揮すること)」が重大テーマとなったのだ。

不確実性を研修で教えるには、どうすればよいか。

私は「ノウハウ」として教えるのではなく、「経験」させて教えることにした。それも、とりわけ教訓を学び取りやすい「修羅場」をくぐらせて──。自分自身もそうだったが、修羅場の経験者は、高確率で飛躍的な成長をとげる。

2週間連続で行う幹部研修では、1週目は韓国、2週目はベトナムといった具合に、「国」を変えて実施することにした。

韓国ではクラスルームトレーニング(座学)を実施する。ここで基本的なリーダーシップについて教え、2週目はその実践のためベトナムに飛ぶ。取り組むのはこちらが指定したプロジェクトで、基本的に本人が未経験の事業に関するもの。ヘルスケア部門の課題を、ジェットエンジンをつくっている部門からの参加者や、ガスタービンを売っている参加者が担当したりする。

情報収集は1日半か2日で終わらせ、3、4日目を使ってレポートを仕上げる。そして最終日に、ベトナムの各事業部門トップの前で改革案をプレゼンしてもらう。

これだけでもかなりの修羅場が体験できるが、2008 年にアクシデントが起きた。

開催地は1週目が日本、2 週目が上海だったのだが、上海の担当者が、情報収集先のアレンジをほとんどやっていなかったのだ。

「取材先が全く手配できていない」という事実を知ったのは、東京での研修を終えて、明日は上海で本番を迎えようというタイミング。「どうするんだ、とても間に合わない」と青くなっているところへ、参加者が次々と現地入りしてきた。当然、すごいブーイングが起きたのだが、私は「黙れ」と叱りつけた。

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