J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2012年11月号

企業事例3 日本イーライリリー “プレイング”マネジャー禁止 部下と上司の成長が生む好循環

「働きがいのある会社」調査で6年連続上位ランキングに名を連ねるなど、組織づくり、人づくりには定評のある日本イーライリリー。そんな同社の人事施策の中で、特に際立つのが「プレイングマネジャー禁止」というもの。育成こそミドルマネジャーの本分、といい切る同社の育成方針と仕組みを取材した。

近藤 平三郎 氏 >> 営業本部 営業人財開発部 統括部長

日本イーライリリー
1975年創業。神戸本社、営業拠点は日本全国23箇所。グローバル本社であるイーライリリー・アンド・カンパニーは、1876年に創業され、130年を超える歴史がある。世界各国の自社研究施設や外部の科学的研究機関との提携により、各治療領域で最高レベルの豊富なポートフォリオの医薬品を開発。世界125カ国以上で事業を展開している。資本金:127億7250万円(2012年度)、売上高:1594億3600万円(2011年連結決算ベース)、従業員数:2400名(2012年3月)

[取材・文] = 西川敦子 [写真] = 本誌編集部

営業課長教育は新人時代から始める!

世界125カ国以上で事業を展開するグローバル製薬会社、イーライリリー。その中で日本イーライリリーは、米国本社に次ぐ規模を持つ一大拠点だ。ニューロサイエンス領域、糖尿病・成長障害領域、筋骨格領域、癌の領域において、さまざまな「世界初」の医薬品を世に送り出している。

Great Place to Work® Institute Japan(GPTWジャパン)が行った2012年「働きがいのある会社」調査では第11位に、製薬業界では第1位に選ばれている同社。驚くことに同社のセールス部門には、プレイングマネジャーが存在しないという。

約170名いる営業課長全員が、マネジャーとしての業務に専念できるとは、いったいどういうことなのか(以下、本文「課長」は全て「営業課長」を意味する)。「“営業課長の役割はMRの育成に尽きる”という考えのもと、課長は全員マネジャーの役目に徹しています。良いMRはマネジャーがつくる。ですから、当社では課長の育成に徹底的にこだわります」

営業本部営業人財開発部 統括部長の近藤平三郎氏はこういい切る。

優秀なセールスリーダー(営業課長)を育てるための教育は、なんと3 年目以降の新人時代からスタートする、というから驚きだ。

全部で7段階あるSLDP(Sales LeaderDevelopment Program)という教育プログラムのうち、1~3は選抜MRが対象だが、営業課長に必要となるスキルの習得や役割の学習などを行う。4、5は営業課長向けのプログラムで、部下育成のための知識、スキルにフォーカスされている。「課長のコンピテンシーモデルは当社独自の『DSMモデル』に集約されていますが、5つの項目のうちの2つはMRとの関係強化や信頼強化、育成にかかわるもの。それだけ、課長にとってMRの育成は重要な任務と位置づけられているのです」(近藤氏、以下同)

部下の営業に2日間密着同行

日本イーライリリーでは、営業課長は10 名程度のMRのマネジメントと育成を行うことになる。多くの企業と同じように、同社でも、かつては課長がプレイングマネジャーとなったこともあった。「欠員が出て、人手が足りないと自身が穴埋めすべく営業に回り、部下の育成に専念するのが難しかった時代もありました」

だが、こうした状況を放置しておいては、MRの成長や業績の向上は望めない。そこで2009年後半から営業課長の営業活動を一切やめさせ、人材を育成しつつ適材を適時に配置できる体制へと転換した。

さらに、課長がMR一人ひとりの営業活動に同行する仕組みを強化させた。「とはいっても、当初はメインの医療機関を訪問する際に同行する『接点同行』が主でした」

接点同行とは、一人の部下と一日中、行動をともにするのではなく、病院ごとに部下と落ち合い、訪問するというもの。

しかし、それでは部下の素顔がちゃんと見えてこない。そこで1人のMRに原則2日間、ぴったりと営業課長が密着同行するように変更した。丸2日間つきっきりでいれば、長所も短所も大体わかるというもの。どこを伸ばしたらいいか、という育成ポイントも見極められるという。「今では、全てのMRが2カ月に1回、課長の同行を受けることになっていますね。課長にしてみれば、月に12日間は部下に同行することになります」

同行で育成の要になるのは、課長からMRに行うコーチング。

同行の前にはロールプレイでシミュレーションを行う。同社には、ドクターと話をする際のモデルとなる話の進め方があり(図表1)、それに沿って話を進める練習をするのだ。

訪問中には、課長は、ドクターとの会話を注意深く聞き、上記モデルに基づいたチェック項目――「ドクターが担当する患者さんの話はできているか」、「双方向のコミュニケーションはできているか」、「知識は十分か」などを評価していく。そして、同行後には、その結果を踏まえ、MRへコーチングを行う。

なお、営業課長の育成のため、支店長が“課長の同行”に同行し、支店長、課長、MRの3名で訪問することもある。ここでも支店長から、課長へとコーチングが行われる。

課長のコーチングスキルをビデオでチェック

コーチング力は、同社の部下育成を左右する重要なカギである。課長も同社が独自に開発したコーチングモデル(図表2)を学び、「観察・傾聴・把握」「フィードバック」「次の行動」「フォローアップ」という基本ステップをしっかり身につける。

極めつけは課長の部下(MR)に対するコーチング力を強化するために行っているビデオ撮影だ。これは新人研修で行う。新人とその上司である営業課長が、ビデオカメラの前で、ロールプレイを行い、その後、全員でそのビデオを見て振り返りを行う。ロールプレイの設定は、営業同行の後に課長がMRに対して行うフィードバックのためのコーチングである。「ビデオ撮影は、2003 年からスタートした取り組みで、形を変えて続いています。録画したものを参加者全員で見ることには、当初、抵抗感がかなりありましたが、今となっては、受け入れられています」

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