J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2017年09月号

CASE 3 武蔵野 スキルよりも価値観の統一が鍵 差別しない、徹底した 理念教育で社員を“家族”に

武蔵野の中途採用では、スキルではなく価値観の統一を意識する。
さらに、理念や価値観を培う勉強会を重視し、
前職での常識を、いったんリセットすることに注力する。
過去の経験を期待する企業が多い中、同社の方針は真逆にも感じられるが、
その理由と独自の手法を、代表取締役社長の小山昇氏に聞いた。


小山 昇氏
代表取締役社長

1964 年設立。武蔵野市内に開局した薬局を前身とし、設立当時からオフィス、店舗、一般家庭向けの美化アイテムのレンタル事業を展開する。独自の経営手法が注目され、主に中小企業を対象に経営サポート事業も手掛ける。2000 年、2010 年に経営品質協議会開催の日本経営品質賞を受賞。中小企業部門では初となる2度目の受賞となった。
資本金:9900 万円
売上高:61億円(2016 年5月〜2017年4月)
従業員数:800 名(2017年4月現在)


[取材・文]=田邉泰子 [写真]=編集部

●前提 過去のキャリアは重要ではない

掃除用品や玄関マット、空気清浄機などのレンタルや、家事代行サービスなどを手掛ける武蔵野。本社のある小金井市周辺や練馬、杉並、などの武蔵野エリアを中心に家庭用から事業用までを展開する。従業員数は800人。増収増益を続ける同社の経営手法に関心を寄せ、代表取締役社長の小山昇氏に教えを請う経営者は多い。

人事評価は成果主義である同社。ならば、輝かしい営業成績を持つ経験豊富な転職者は、喉から手が出るほどほしい人材なのでは、と思いきや、小山氏は、「そういったことは重要ではない」とバッサリ。むしろ、前職での成功体験が足かせになることがあると指摘する。

「それぞれの会社のやり方があるのに、“前の職場ではこうだった”と、切り替えがうまくできない人は、どんなに優秀で、能力があっても結局活躍できません」(小山氏、以下同)

普通は中途採用というと、前職での実績だけでなく、職務経歴や所有する資格などを指標にしがちだ。ポテンシャルを重視する新卒採用と異なり、“目に見える”キャリアが、即戦力として通用するか否かの判断材料になる。だが小山氏は、この点についてもこだわらない。

「仕事に必要なスキルは、入社後に一生懸命勉強してもらえればいい。ですから当社では、転職者のキャリアをそれほど重視していません」

“過去”にこだわらないというのであれば、中途採用のどこにメリットを感じるのか。

「転職を希望する人は、前の会社や仕事に何かしらの不満を持っています。ですから、前職と比較して当社に魅力を感じれば必死に頑張ってくれるでしょう。学生と違って社会の厳しさも知っていますから、簡単には辞めません。その点は“青い鳥”を探しがちな、新卒入社組にはない良さですよね」
―転職者が即戦力として活躍できる素地は、スキルではなく適応力にあると、小山氏は指摘する。

●採用 「家族になれるか」を見極める

転職者のキャリアを重視しないとはいえ、採用には細心の注意を払うのが「武蔵野流」だ。

「当社の考えや価値観、風土に共感でき、行動を共にできるかどうか。これが最も重要です。

例えば、社員旅行で温泉に行ったとしますよね。宿に着いてひと風呂浴び、夜の宴会でみんなが浴衣を着ているのに、恥ずかしいからと1人でトレーナーを羽織るようではダメ。世間一般では“できる”と評価される人材だとしても、当社では生きていけないし、結局辞めてしまう。最終的には肌が合う、合わないで決まるんです。能力のあるなしではないのです」

■風変わりな相性チェック

この言葉通り、採用サイトにも、応募者向けに「相性チェック」を設ける(図1)。ここには、スキルを問うような内容はほとんどない。新卒採用特設サイトにおいては、なんと「お酒が好きですか?」という質問に“Yes”を選ばない限り、エントリーページには飛ばない仕掛けになっている。

「当社にとって飲み会は、重要なコミュニケーションの機会ですから。ほろ酔い加減で本音トークをしている中で、ウーロン茶片手に冷静に分析するようでは、周りがシラけてしまう。酒豪である必要はないですが、お酒の付き合いができて、それを楽しいと思える人、というのは必須です」

■“謙虚さ”を見極める方法

続く面接では、何を見ているのか。多くの会社同様、武蔵野でも人柄を重視する。だが小山氏によれば、それは“お人好し”とは違うという。

「極論を言えば、別に性格が悪くたって構いません。でも仕事のできる人のやり方を認め、それを取り入れることのできる謙虚さがほしい。その裏には、人の真似をしてでも結果を出そうとする貪欲さがあるわけですから。逆に、こだわりを捨てられなかったり、自分の正義を振りかざしたりする人は、当社にはなじめません」

“謙虚さ”をどこで見極めるかは難しいところだ。小山氏の場合は面接中に同じ趣旨の質問を、聞き方を変えて3回繰り返す。想定問答では対応できないような問いかけで、相手の“素”を引き出すという。

「もし3回の答えに齟齬があれば、その時々で考えを繕っている証拠ですよ。嘘をつかずに正直になれる人は、答えに一貫性がありブレません。そういう人は信頼できます」

■プライバシーは筒抜けに

さらにもう1つ大きな入社条件がある。それは「個人情報の公開」だ。仕事の成否だけでなく、家族のことから趣味まで全て隠さないことを承諾書にサインする。小山氏は、800人を超える従業員の事情をほとんど把握しているという。

「当社の場合は半数が社内結婚だからというのもあるのですが。何が言いたいのかというと、社員は家族なんです。近年はプライバシーを尊重するあまり、コミュニケーションが希薄な会社も少なくありません。しかし、当社は全く逆ですね」

私生活と仕事は密接であり、社員と本音で対話するには、私生活でどういう状況にあるかをある程度把握していることも必要になる。逆に、関係が希薄だと、その分、社員の成長を妨げ、最終的に会社の成長を阻むことになる、ということなのだ。

●現場の施策 立場の近い若手が面倒を見る

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