J.H.倶楽部

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Learning Design 2019年05月刊

私のリーダー論 「変えるをよし」と 鉄道魂で 貨物の未来を切り拓く

産業構造、技術革新、労働力不足――あらゆるものが変化にさらされる時代、貨物鉄道を取り巻く環境もまた移り変わろうとしている。
「守るべきものは守り、変えるべきものは変える」と語るのは、2018年、社長に就任した真貝康一氏だ。
異色の経歴をもち、東日本大震災では東北支社長として指揮をとった同氏に、経営改革の基本方針、人づくりの理念について聞いた。

プロフィール
真貝康一(しんがい こういち)氏
日本貨物鉄道 代表取締役社長 兼 社長執行役員

生年月日 1955年6月11日
出身校 東京大学法学部
主な経歴
1978年 日本興業銀行(現みずほ銀行)入行
1999年 ハウステンボス 出向
2007年 JR貨物 入社
2009年 執行役員東北支社長
2011年 常務執行役員東北支社長
2014年 取締役鉄道ロジスティクス本部
    営業統括部長
2016年 取締役兼常務執行役員
    鉄道ロジスティクス本部
    営業統括部長
2017年 取締役兼常務執行役員
    事業開発本部長
2018年 代表取締役社長兼
    社長執行役員 就任
現在に至る

企業プロフィール
日本貨物鉄道株式会社
1987年設立。貨物鉄道事業、倉庫業、駐車場業、広告業、損害保険代理業その他の保険媒介代理業、自動車整備業、一般土木・建築の設計、工事監理および工事業、その他附帯・関連事業等を手掛ける。
資本金:190億円(2019年3月現在)
連結従業員数: 5,406名(2018年4月1日現在)
連結売上高: 1,945億6,100万円(2018年3月期)

取材・文/村上 敬 写真/中山博敬

「お客様」「現場」の2軸で改革

─2018年6月に代表取締役社長兼社長執行役員に就任されました。経営方針を教えてください。

真貝康一氏(以下、敬称略)

私が社員に向けてよく言っているのは、「変えるをよし」です。実は、JR 貨物は経営的に厳しい局面に立たされた時期もあります。そのため何かを変えたくても、お金をかけて投資することが難しく、断念せざるを得ない面がありました。

しかし、現在は投資できるだけの体力がようやく付きつつあります。2016年度、2017年度は、貨物鉄道事業は黒字化を果たしました。連結でも2期連続で経常利益100億円以上を達成しています。これからは前例主義に縛られるのではなく、変えなければと気づき、気づいたことはどうすべきかを考え、積極的に変えていかねばなりません。社員の意識改革、企業風土改革を含めて、現在、経営改革に取り組んでいるところです。

─具体的にどのようなところを変えていくのでしょうか。

真貝

重要なのは「お客様」と「現場」という2つの軸です。

「お客様」とは、お客様のニーズにこたえる商品をどのようにつくっていくのか、という軸です。「現場」とは、机上の論理ではなく、現場で起きている実態を把握し、いかに現場の声や知恵を汲み上げて経営に生かすか、という軸です。

それぞれをもう少し具体的に説明しましょう。国鉄分割民営化から30年以上が経過しましたが、貨物鉄道の社会的役割は変わりません。むしろ、その役割を従来以上に求められる時代になりました。持続可能な地球の在り方が求められるなかで、CO2排出量がトラックの約11分の1である鉄道輸送の優位性は、ますます高まるはずです。また、近年は人手不足で物流全体の労働力確保が社会問題化しています。中長距離で安定期に大量輸送できる貨物鉄道の出番はさらに増えるでしょう。

こうした社会的な変化に合わせて、リードタイム、輸送の品質、プライシングなどの面でお客様のニーズにどうやってこたえていくのか。それが「お客様」を軸に考えるということです。

たとえば私が営業統括部長のころ、それまで各社バラバラに輸送していたビールの共同輸送を開始しました。共同輸送を実現するには、製造や保管も含めてサプライチェーンをお客様と一緒になって見直さなくてはいけません。こうしたソリューションは、受け身の営業では難しい。お客様を軸にして、ソリューションを提供したからこそ生まれたサービスです。

─もう1つの「現場」軸でも、新しい取り組み事例はありますか。

真貝

ごく身近な事例ですが、現場の声を聞いて、本社と支社の一部にモバイル端末やタブレットを導入しました。車両の検査・修理を行う車両所は、かつては紙ベースで作業確認や部品調達などをしていましたが、デジタル化で作業が大幅に効率化され、作業の正確性が増しました。この取り組みを全社に広げていこうと考えています。

AIにはない創造的思考力を磨け

─「お客様」と「現場」という軸で経営改革を進めるには、どのような人材が必要でしょうか。

真貝

まず求められるのは、揺らがぬ使命感です。貨物鉄道は社会的なインフラです。自分たちの事業は人々の生活を支える責任を負っているという“鉄道魂”ともいうべき使命感が根底にないと、他にどのような能力があったとしても意味がありません。

そのうえで、必要な能力を具体的に挙げると、まず創造的思考力がほしいですね。これから業種業界を問わず、AIが浸透していきます。しかし、コンピューターは学習はできても、創造することは難しい。パスカルは「人間は考える葦である」と言いましたが、まさに物事を創造的に考えてこそ人が仕事をする意味があるのでは。

創造的思考力は、未来を築くためだけでなく、いままさに必要とされている力です。目下、私たちは「変えるをよし」で改革に取り組んでいますが、「以前もダメだったから今回もダメだ」という発想でいると、何も変えられません。創造的に考えるということは、建設的に、プラス思考で考えるということでもある。創造的思考力は、変革のときに特に求められる能力といえるでしょう。

思考力を磨くトレーニングには、文章を書くことが一番です。私は銀行員を30年間やっていましたが、自分の考えを紙に落とし込む作業を繰り返しやらされて、相当に鍛えられました。頭のなかで何となくわかったつもりでも、紙にしてみると漏れがあったり、まとまっていなかったりする。もちろんいまなら紙ではなくデジタルでもいい。アウトプットしながら考えることで、アイデアはより良いものになっていきます。

コミュニケーション能力も大切ですね。いくら思考力を発揮しても、ひとりよがりでは間違えたり、抜けや漏れが発生することがあります。そうならないよう、人の話に耳を傾けて、しっかり咀嚼したうえで判断を下すべきです。

特に私たちの事業は、コミュニケーションが大事です。1つの荷物をA駅からB駅に運ぶ仕事には、大勢の人がかかわります。1つの仕事のミスがあるだけで荷物は安全に運べません。良いチームワークがあってはじめて成り立つのですから、なおのこと真摯に人の話を聞く必要があります。

もう1つ付け加えるなら、想定外の事態への対応力です。私たちは安全最優先で取り組んでいますが、日本は自然災害が多い国で、想定外の事態はどうしても起こり得ます。マニュアルでも想定していないような“非連続的なこと”が起きたときに、どう判断し、対応するか。そのベースになるのはこれまでの経験だと思います。幸い、社員たちは経験豊富で、高い対応力をもっています。引き続き期待したいところです。

混成チームで気づきを促す業務創造推進プロジェクト

─いま挙げていただいた能力やマインドをもった人材を、どのように育成されていますか。

真貝

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