J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2015年04月号

人材教育最前線 プロフェッショナル編 問題解決につながらない教育には意味がない

「会社に対する忠誠とは何か。一言で言えばイエスマンではないこと。問題意識を持ち、こうするべきではないか、と提言できる人こそ本当の忠誠心を持つ」。こう語るのは富双合成 管理本部 管理部 部長の石橋徳久氏だ。年功序列の中で「周囲から認められていない人が上に立つ」ことに抵抗感を持っていた前職時代。会社の成長のために成すべきことを問い続けた石橋氏が今、同社でめざすのは、誰もが納得できる制度の確立と、見過ごされてきた職場の課題を、社員自身が課題として捉えられる問題発見力の向上である。

管理本部
管理部 部長
石橋徳久(Norihisa Ishibashi)氏
1985 年、イベント管理会社に就職。1989 年、建築資材の専門商社に転職。人事課長を務める。2010 年6月、富双合成入社。管理部部長に就任し、賃金制度から目標管理制度、考課制度、教育制度まで同社の人事制度全般を刷新してきた。

富双合成
1951年設立。ゴム製品製造からスタートし、塩化ビニル加工メーカーとして成長。現在は一般住宅や店舗向けの床材や壁紙、およびテーブルクロス、シャワーカーテンなどのホームファニシングの製造、販売を手掛ける。資本金:3億円(2014 年4月1日現在)、売上高:130 億円(2014 年12月期)、従業員数:300 名(2014 年12月31日現在)
取材・文・写真/髙橋真弓

「組織の動かし方」を知る

石橋徳久氏が大学卒業後、最初に入社したのはゴルフやプロ野球など、スポーツ関連のイベントを管理する会社だった。中でも長く担当したのが西武球場での仕事。球場では1塁側、3塁側に責任者としてそれぞれ社員を置き、その下に改札、外野席、内野席、指定席、外周通路などアルバイトをチームで配置する。ボールの回収からチケット切り、会場整理、警備など1試合で働くアルバイトは200 ~ 400人にもなる。石橋氏は25歳でそうした全人員を統括するトップのポジションに就いていた。

「アルバイトだけで総勢2000人くらい管理していました。人の募集から試合当日の会場の管理、クレーム対応など仕事はさまざま。その中で一番学んだのは組織の動かし方でした」

統括する立場になって最初の頃のこと。部下である責任者を飛び越えて、アルバイトのリーダーに直接指示を出してしまったために責任者に情報が流れず、現場を混乱させてしまった経験がある。

「自分が直接指示を出すべきは責任者である社員。そして、彼らがアルバイトのチームリーダーに指示し、リーダーがメンバーに指示する。指示命令には順序があり、伝えるべき人を間違えてはいけない。これはどの会社、組織でも同じです。社長が直接、社員に指示・命令を出していたら組織は崩れてしまいます。

さらに、社長や専務など絶対権を持つ人が、一般社員を直接叱責したら、その社員は『トップに言われてしまったら、もうこの会社ではやっていけない』という気持ちになってしまう。部長、課長を通して伝えるのが組織なのです」

この時学んだ指示・命令系統にのっとった情報伝達の重要性は今でも常に意識し、それに基づいて行動しているという。

会社の思想を反映させる仕事

イベント管理会社に5年間勤めた後、石橋氏は従業員800 名ほどの建築資材専門商社に転職。これが人事の道を歩むきっかけとなる。

当時はバブル経済のピークで、大量採用を背景に企業側の採用担当の人手も不足し、人事系の求人が溢れていた。石橋氏は前職でのアルバイトの募集・統率の経験を活かし、採用担当として入社した。最初は人事について何ひとつわからないような状態だったという。だがそこから、同社の等級制度、賃金制度、目標管理制度、人事考課制度を整備し、最後は人事課長を務めた。そこには、人並み外れた努力があった。

「制度設計に取り組んだことで、人事は会社や経営者の思想、考え方を反映させる仕事であると実感しました。それは賃金制度や評価制度だけでなく採用の仕事も同じ。『面接』という場で、会社の考え方や風土、文化に合う・合わないを見極めているのです。

採用で最も気にかけるのは、『新しい細胞(応募者)を移植した時に、拒絶反応を起こさないか』ということ。本人が起こさなくても、周囲が起こす可能性もあります。しかし、周りが起こすかどうかは、会社側の人間にしかわからない。だから何度も面接を重ねるのでしょう。30歳を過ぎた頃、そう考えるようになり、本格的に人事の仕事に興味を持ち始めました」

人事の仕事の奥深さを知って、そこから猛烈に勉強した。年間150 冊以上の本を読み、大学時代の教科書も全て読み返し、明治大学や慶應義塾大学のビジネススクールにも通った。学んだことを仕事での問題解決に反映させていくと、自然と給料も上がり、そのことがさらにモチベーションを後押しした。

十数年間、仕事をしながら勉強漬けの毎日を送ったが、「人間は必要だと感じれば必死になって勉強をする、ということを身をもって知った貴重な時間でした」と石橋氏は振り返る。

ゼロからの人事制度構築

前職の専門商社を辞め、富双合成に入社したのは2010 年6月。この時、実は富双合成以外にも人事課長として2社の一部上場企業から内定をもらっていた。

「富双合成を選んだ理由は、『とにかく何もないから、一から人事まわりの制度をつくってほしい』と言われたからです。何もかも出来上がっている上場企業に入っても、私がやることは何もありません」

まず着手したのは、就業規則の整備。それから年功序列だった賃金制度を刷新し、目標管理制度と、それに沿った考課制度をつくった。そして2014 年、最後の仕上げとしてできたのが、教育制度である。

「人事制度とは、賃金制度、目標管理制度、考課制度、教育制度の4つの柱でできていると考えています。しかし、目標管理も考課もある意味、教育です。そして、賃金は考課に基づいて変わっていく。裏返せば、全てを含めて教育制度だと言えます。

私が入社する以前も制度自体はありましたが、残念ながらあまり機能していませんでした。例えば、毎年行う目標シートの記入も形式的なものになっていました。本質的、根本的な意義や活用の仕方が理解されていなかったのです」

石橋氏はそうした課題を一つひとつ洗い出し、改善していった。目標は書いただけで終わらせず、上長と部下で面接を行い、考課の結果もフィードバックする仕組みをつくった。

こうした大規模なテコ入れに対し、社員からの反発、抵抗はほとんどと言っていいほどなかったという。

「社員たちも『これでいいのか?』と薄々気づいていたのでしょう(笑)。ですが、4年間でよくここまで出来たと思っています。その要因の1つはトップが人事制度の改革に賛同してくれたこと。トップ自身に『制度をきちんとつくりたい』という想いがあったからです」

問題解決につながる教育

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