J.H.倶楽部

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Learning Design 2018年07月刊

ISSUE2 育成の転換点 事業立地を変えられるリーダーの土台 今の幹部育成で欠けている 4つの『観』とは

「現在の日本企業の幹部育成は内向きすぎる」と警鐘を鳴らすのは、神戸大学大学院の三品和広教授である。
現状の延長線上に未来はない環境の中、世界を相手に戦わなければならない。
そんな時代に鋭く舵が切れる事業変革リーダーには、どんなことを学ばせるべきで、どのような機会を与えればよいのだろうか。

Interviewee
三品和広(みしな かずひろ)氏 
神戸大学大学院 経営学研究科 教授

1959年愛知県生まれ。1982年一橋大学商学部卒業。1984年一橋大学大学院商学研究科修士課程修了。1989年ハーバード大学文理大学院企業経営学博士課程修了。1989年ハーバード大学ビジネススクール助教授などを経て2004年より現職。
著書に『戦略不全の論理』『高収益事業の創り方(経営戦略の実戦〈1〉)』(共に東洋経済新報社)などがある。

[取材・文]=竹林篤実

Change or Die

「今後はいかなる企業も、外部環境の変化に応じて柔軟かつ迅速に事業変革や再生に取り組まなければ生き残れません。社名にとらわれずに、自社が『何屋』をやるのかという“事業立地”を変えていく必要があるということです」(三品氏、以下同)

従来と異なる事業領域に積極的に打って出る―事業責任者の多くが頭では分かっているものの、実際に動き出すことは、なかなかできない。特に伝統ある企業で創業者を継いだサラリーマン社長ほど自縄自縛状態に陥りがちだ。

「それはある意味、当然の話です。なぜなら伝統ある企業には、OJT を基盤とした教育で鍛え上げられ、今までやってきた領域でこそ力を発揮できる人たちが揃っているからです。彼らは既存領域でこそプロとして認められるのであり、外に出てしまえば素人と変わりません。だから、従来の主力事業にこだわり、その中で改善を尽くそうとする。けれども、そうした活動からブレークスルーが生まれることは決してなく、やがて昔の日本軍のように総玉砕するしかなくなります」

1980年代、Japan as No.1と言われた時代に、日本に抜かれたアメリカは、その後異なる領域で再生した。そして今では日本が、かつてのアメリカのように中国に追い抜かれてしまった。世界の国際特許取得ランキングは、1位アメリカ、2位中国、日本は3位である(世界知的所有権機関WIPO 調査、2017年)。将来の科学力を示す学術論文ランキングでも日本は既に6位まで落ちている。トップは中国、2位がアメリカ、3位はインドである(全米科学財団調査、2016年論文数世界ランキング)。

「熾烈なサバイバルレースが繰り広げられる時代に求められるのは『操業者』ではなく新たな『創業者』です。慣れ親しんだホームベースを後にして、新しい事業を興す。そうした変革を断行する際には、今いる社員たちが全力で引き留めにかかるでしょう。抵抗する社員たちを引きずってでも前に進む。不退転の信念が第二の創業者には求められます」

創業者に求められる4つの「観」

そして、新たに事を興す、もしくは事業の立地を変え、世界と戦う創業者は、4つの「観」――「歴史観」「世界観」「人間観」「事業観」を身につけなければならないと三品氏は言う(図)。

①歴史観

「歴史観とは最低でも50年から100年単位で物事の動きを見る視点です。例えば100年前の20世紀初め、日本で資産総額が最大だった企業は鐘紡でした。ところが同社は既に解体されてしまいました。一方で21世紀初めに日本を代表する企業といえばトヨタでしょう。そのトヨタの創業は1933年、それも自動織機の副業としてのスタートでした。では、21世紀後半の日本を代表するのはどのような企業でしょうか」

100年前といえば、第一次世界大戦が終結し、ロシアで革命が起こってソビエト連邦が建国され、松下電器が創業したころだ。では、今から100年後の世界はどう変わっているだろうか。その世界に自社は生き残っているだろうか。

「これからの創業者、事業責任者は業界を知っているだけでは不十分。江戸末期の殖産興業時期からの時代の波動や覇者と新興勢力の栄枯盛衰、何が分かれ目になったのかといった、“事業の歴史”や世界の中の日本という視点での流れを理解し、物事をロングスパンで捉える視点が求められるのです」

世界観と人間観が事業観を支える

②世界観

次の「世界観」とは、何を善とし、何を悪とするのかといった基本的な価値観である。これは社会に固有のもので、基本的な発想が民族によって全く異なるという。

「地勢的に日本とよく似たイギリスを例に考えてみましょう。バイキングに蹂躙され、食うか食われるかの世界を生き延びてきた歴史を持つのがアングロ・サクソンです。他方、閉鎖的な世界の中で皆が仲良くやっていれば丸く治まったのが日本。国としての成り立ちが全く違うのです。『和を以て貴しと為す』でやってこれたのは、和を乱しに攻めてくる外敵がほとんどいなかったから。同じ島国でも、常に敵と戦って生き残ってきたイギリスの考え方は『強しを以って尊しと為す』。こうした、民族の歴史的経験や伝承された知恵の結晶が世界観です」

社会や民族によって違うのが当たり前だが、そうした違いを理解せず、自分たちの価値観のみを前に出してグローバル展開に乗り出しても失敗するだけだ。

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