J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2016年09月号

Trend 1 集合天才でイノベーションを生む コレクティブ・ジーニアス・リーダーシップ

リンダ・A・ヒル教授は、2015年の「世界で最も影響力のある経営思想家50人」
で世界第6位にランクインするなど、話題の経営学者である。
近年の研究は、イノベーションとリーダーシップの関係だ。
グーグルやピクサー、ファイザー等、継続的にイノベーションを起こしている企業のリーダーに調査を行っている。
イノベーションは、どのようなリーダーシップとチームから生まれるのか。
今後求められるリーダー像と合わせて聞いた。


リンダ・A・ヒル(Linda・A・Hill)氏
ハーバード・ビジネススクール ウォレス・ブレッド・ドナム記念講座 教授

ハーバード・ビジネススクール教授。リーダーシップ開発、人材管理、イノベーション、グローバル戦略遂行、組織横断型マネジメント等を専門に、三菱商事、GE、アクセンチュア、ファイザーなど世界的大企業のコンサルタント・教育者として活躍。日本政府からは女性活躍推進アドバイザーの依頼も。共著に『Collective Genius』(HarvardBusiness Review Press 、邦題『ハーバード流 逆転のリーダーシップ』)等。

[取材・文]=堀尾志保・小菅 啓・永國幹生(JMAM) [写真]= HBS 提供、永國幹生

2つの研究の間をつなぐ

私は、ハーバード・ビジネススクール(以下HBS)でリーダーシップ教育の責任者を務めており、近年は、イノベーションを起こすリーダーシップについて研究している。

きっかけは、2000 年代初頭のこと。アメリカでは経済不況を背景に、80 年代から90 年代にかけて、ジョン・コッター氏やウォレン・ベニス氏らによる「組織に変化をもたらす変革型リーダーシップ」の考え方が広く普及していた。しかし2000 年代に入り、HBS内で、そうした「組織に変化を起こす」というレベルを超え、「未来に向けてイノベーションを起こせるリーダーをハーバードで育てていこう」というミッションが立ち上がった。

早速、同僚の教授とディスカッションのうえ文献を調査し、イノベーションについて詳しい人を探して取材を始めた。この初期調査で分かったことは、リーダーシップの研究者とイノベーションの研究者は異なる分野に属しており、その間をつなぐ研究が十分になされていないということだった。そこから、イノベーションを起こすリーダーを養成するには、イノベーションとリーダーシップとの関係性を明らかにすることが大事だと考え、イノベーティブな企業におけるリーダーの調査を進めていった。

似て非なるリーダーシップ

グーグルやピクサーに代表されるような、常にイノベーションを起こし続けている企業で、イノベーションを牽引していると名高いリーダーたちの行動を観察し、ヒアリング調査をし続けている。2016 年3 月時点で、29 名のイノベーティブ企業のリーダーの調査が完了した(編集部註:『Collective Genius』、邦題『ハーバード流

逆転のリーダーシップ』は、16名の調査が進んだ段階で執筆された)。

調査前には、組織に変化を起こすリーダーシップ(変革型リーダーシップ)と、イノベーションを起こすリーダーシップは類似のものだと考えていた。しかし、調査を進めると、両者が全く異なるものだということが分かり、非常に驚いた。

私たちは、イノベーションと聞くと、スティーブ・ジョブズのように、カリスマの天才的なひらめきが重要と考えがちである。しかし、実はそうした1人のひらめきからイノベーションが起きることは極めて例外的で、多くのイノベーティブ企業では、集団による創造性がその源泉となっていること、また集団のリーダーは、メンバー個々のリーダーシップや創造性を引き出し“コレクティブ・ジーニアス(集合天才)”な状態をつくり上げていることが、徐々に明らかになっていったのである。

例えば、『トイ・ストーリー』や『ファインディング・ニモ』などのアニメ映画で有名なピクサー・アニメーション・スタジオは、制作した映画の多くが成功を収めており、誰が見てもイノベーティブな企業だろう。しかし、ピクサーを牽引するリーダーは? と聞かれて答えられる人は何人いるだろうか。グーグルでもそれは同様だろう。

コレクティブな在り方とは

■未来志向

具体的に、イノベーティブ企業のリーダーに共通していたのは、まず、全員がフォワードシンキング―未来を見据え、先見の明があるということである。他の人よりずっと先を見て、「機会の可能性」を捉えている。

■ビジョンの明確化よりも、創造性が発揮される環境づくりに注力

また、イノベーティブ企業のリーダーたちは、「変革型リーダーシップ」でいわれるカリスマ的なリーダーとは異なり、明確にビジョンを打ち立てているわけではなかった。

「『イノベーションとは全く新しいことをすること』であり、リーダーであっても、方向性や、チームがすべきことについて指示することはできない。明確にビジョンや方法を説く仕事は、もはやイノベーティブな取り組みではない」と考えているリーダーが実に多かった。「ビジョンを描けないようなチャレンジに取り組むこと自体が、仕事の醍醐味だ」と語った人さえいたほどである。

では、コレクティブ・ジーニアスをもたらすために、リーダーは何をするのか。調査したリーダーたちが口を揃えたのは、「リーダーだけがアイデアを打ち出していたら、他の人がアイデアを生み出す余白がなくなる。その余白を生み出すこと」「メンバーがワクワクして取り組む環境があって、初めてイノベーションは起こる」ということだった。

つまり、リーダーが「自分が自分が」と我を通すのではなく、めざすゴールをメンバーと一緒にしっかりと確認し合う。さらに、ゴールに到達する方法やアイデアがメンバーたちから湧き出て、取り組んでいけるような環境づくりを第一としていたのである。

イノベーションにはハードワークが伴うため、「ワクワク」や「自発性」は特に欠かせない。

■非凡だが、自説に固執しない

我を通さないといっても、リーダーが凡人であってよいわけではない。優れた才能を持つメンバーたちから、リーダー自身もクリエイティブな人だと、認識されている必要がある。

そのため、リーダー自身もアイデアを提案すべきであり、多くの場合、アイデアを出す最初の人であるかもしれない。しかし同時に、“自分のアイデアがベストとは限らない”という柔軟なスタンスを取り続けなければならない。

■主役にならずに統制をとる

リーダーシップを発揮するのは、どのような場面でもタフな仕事であるが、変革型リーダーシップで追求されていたタフさと、イノベーションを起こすリーダーのタフさは違う種類のものである。

後者は、自分が主役になるのではなく、かといって優秀なメンバー個々の暴走を野放しにするのでもない。個々の創造性を存分に発揮してもらう部分と、組織力を発揮するために、統制を図る部分のバランスを見極め、環境づくりに尽力するのである。

■リーダーの役割

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