J.H.倶楽部

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Learning Design 2018年07月刊

スペシャルインタビュー 私の戦略人事論 求められるのは 10年20年先を見据えた ビジネスと学びのシフト

本州の東半分の鉄道事業で安全安心を支えながら、駅ナカやSuicaといった新事業も展開してきたJR 東日本。
国鉄民営化から31年を迎え、今後の環境変化に備え経営体制を変更、4月より深澤祐二氏が社長になった。深澤氏は人事部門で長年の経験を持つ。
そこで、どのように今後、ビジネスと学びを転換させていこうとしているのか、「戦略人事論」を聞いた。

プロフィール
深澤祐二(ふかさわ ゆうじ)氏
生年月日 1954年11月1日(63歳)
出身校 東京大学法学部
主な経歴
1978年4月 日本国有鉄道 入社
1987年4月 東日本旅客鉄道 発足
2006年6月  取締役人事部長、JR東日本総合研修センター所長
2008年6月 常務取締役
2012年6月 代表取締役副社長
2018年4月 代表取締役社長 就任
現在に至る

企業プロフィール
東日本旅客鉄道株式会社
1987年、日本国有鉄道から民営化し発足。重点取組事項の一つに「人を伸ばす企業風土づくり、生産性向上による経営体質強化」を掲げている。
資本金:2,000億円(2017年3月現在)連結売上高:2兆9501億5600万円( 2018年3月期)
従業員数:54,880名(2018年4月現在)

取材・文/村上 敬 写真/ JR 東日本提供、中山博敬

「鉄道」から「ヒト」中心へ

─民営化から昨年で30年。今後の経営戦略を教えてください。

深澤祐二氏(以下、敬称略)

JR が発足してからの30年は、鉄道の復権と再生を大きな目標に掲げて、次の3つの事業に取り組んできました。まず根幹である「鉄道事業」、そして駅を中心とした「生活サービス事業」、さらに「IT・Suica 事業」です。おかげ様でこれら3つの事業基盤を構築でき、当初の目的は一定程度、達成できたと考えています。

では、次の30年は何を目指すのか。前提として考えなければいけないのは人口減少です。首都圏においても長いタームで考えれば人口減少は間違いなく進むため、それに合わせてビジネスモデルを変えていかざるを得ない。具体的には、これまでの「鉄道」や「駅」を中心としたビジネスモデルから、「ヒト」を中心としたビジネスモデルへの転換を図ります。

─ヒトを中心としたビジネスモデルとは、どのようなものですか。

深澤

例えば鉄道事業は、新幹線や直通運転のネットワークがほぼできあがりました。今後は鉄道の周りの二次交通も含めてトータルで考えていきます。ヒトを中心に考えれば、例えば鉄道に乗る前後の輸送もワンストップで予約できるプラットフォームがあってもいい。また、前後の交通手段として、自動運転車やシェアサイクルとの連携も考えられます。

生活サービスでは、駅づくりからまちづくりにも進出します。これまで駅を中心にオフィスやホテル、ショッピングセンターの開発をしてきましたが、今後は住宅や文化施設といったものも開発対象になります。実際、いま品川の車両基地跡地では、人が集まるまちをどうつくるのかといった観点から開発を進めています。

3つめの柱であるIT・Suica事業ですが、Suicaの発行数はいまや7000万枚に達し、一つのインフラとしてご利用いただいています。Suica には決済、認証、チケットなど様々な機能があり、それらの機能を使って他社ともオープンに連携して、さらに広がりを持たせようと考えています。

新しい事業フィールドという意味では、海外も重要です。海外では、高速鉄道、都市鉄道を含めて鉄道に対するニーズが高まっています。そうしたニーズに応える形で既にいくつかのプロジェクトを走らせていますが、今後もサステイナブルな形でさらに広げていきます。

安全分野にもチャレンジが必要

─ビジネスモデルの変化に伴い、求められる人材像も変化しますか。

深澤

私たちはインフラに対して責任を持ち、安全、安心を実現する使命を持っています。これは今後も変わりません。また、鉄道事業における信頼の基盤があってはじめて他の事業も展開ができます。ですから、どの事業分野においても信頼がベースであるという自覚は、全社員に持ってもらわなくてはいけません。

一方、事業フィールドを広げる際にはチャレンジする意識も必要です。鉄道事業では安全を守るため、決められたことをきちんとやることが求められますが、それだけではどうしてもコンサバティブになってしまう。

例えば海外事業は、人材が“外向き”でないとうまくいきません。いま常時約100~200人に海外で仕事をしてもらい、研修でも毎年500人ほどを海外に出していますが、そうやってチャレンジする人材を増やしていかなければならないでしょう。

─保守的な特性と挑戦する特性、両方が必要となると、例えば評価はどのようにするのでしょうか。

深澤

現在、当社の3分の2が鉄道事業、3分の1が鉄道以外の事業ですが、事業によって制度を分けていく必要を感じています。鉄道はチームワークで安全を保つ事業であり、営業のように個人の頑張りを定量的に評価するような体系は相応しくありません。実際、長期雇用を前提として能力アップを図る体系になっています。しかし、海外で優秀な人を採用するなら、また別の体系が必要になるでしょう。

誤解のないように付け加えると、鉄道事業でもチャレンジはしていきます。例えば安全度を高めたければ同じことを繰り返すだけではダメで、技術革新が求められます。新幹線の速度がさらに上がり、無人運転の世界が始まるときに、安全度をどう高められるのか。日々の仕事は着実にやっていかなくてはなりませんが、10年20年後を見据えれば、革新的な発想をすることも重要です。

各種アカデミーでミドルを育成

─そうした経営戦略を実現する人材の育成に鍵となることは。

深澤

当社の営業エリアは本州の東半分で、とても広大です。しかも人が各駅に点在している。人と人の距離が物理的に離れていると、いくら努力しても本社の考えが隅々まで伝わり切らないおそれがあります。

そこで重要になるのが、それぞれの部署のマネジメントです。中間マネジメントが力をつけて本社の考えていることを的確に伝えてくれたら、全体のレベルアップになります。

─ミドルマネジメントの育成はどのように行っていますか。

深澤

いくつかありますが、私が人事部長時代に始めたのが「技術アカデミー」です(写真)。これは若手社員(30代前半)から毎年約50人を公募し、1年間、通常業務から離して集中的に教育を行うものです。

教育の内容は多岐にわたります。技術の専門的な内容はもちろん、グループマネジメントの教育もします。私は設立当初から校長をして、直接講義をしたり、彼らの研究発表を聞くなどして、いまも関わっています。

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