J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2016年04月号

OPINION2 不安の除去と職場のサポートがカギ 若手社員の意欲を高める 「組織社会化」のアプローチ

若手社員が企業の中で高いモチベーションをもって働くためには、組織への適応と帰属意識の向上が欠かせない。
その「組織社会化」を進めるには、入社直後の働きかけが重要だ。
彼らの潜在能力を引き出し、働きがいをもたらす方法とは。
組織社会化研究の第一人者、学習院大学の竹内倫和氏に話を聞いた。


竹内倫和( たけうち ともかず)氏
学習院大学 経済学部 経営学科 教授
1975 年愛知県生まれ。明治大学大学院経営学研究科博士後期課程単位取得退学後、他大学の専任講師、准教授を経て2011年4 月より学習院大学経済学部准教授。
2013 年4 月より現職。国際学会・国内学会で受賞多数。専門は組織行動論・キャリア論・人的資源管理論。

[取材・文・写真]=田邉泰子

“組織への適応”の重要性

「組織社会化」という言葉を聞いたことはあるだろうか。これは、個人が企業や職場といった“組織”の文化や価値観を受容・共有し、適応していくという“社会化”に向けた一連のプロセスを意味する。社員がこの組織社会化に成功すれば、組織の中での自分の役割や存在意義を認識できると同時に、組織のために頑張りたいという気持ちが生まれる。つまり、仕事に対するやる気やモチベーションの向上につながるのだ。

その中でも、私が研究を進めているのは、新入社員の組織社会化についてである。研究の核となるのが、新入社員数百人を対象に毎年入社時に行うアンケート調査だ。「組織コミットメント」「個人-組織適合」「転職意思」「仕事へのモチベーション」「個人-職業適合」の5つの概念に基づいた設問に対し、「そう思う」「そう思わない」などの度合いを回答してもらう。さらに入社1年後、2年後に追跡調査を行い、回答の経年推移や概念ごとの関連性などについて検討を行っている。

若手社員の意欲や帰属意識は、どのように変化するのか。調査では、入社後時間がたつにつれ、仕事に対する意欲や会社への帰属意識が低下し、逆に転職意思が高まる結果が出ている(図1)。また近年、入社直後から3カ月ごとと、間隔を短くして調査を行っているが、この傾向は入社初期から生じていることが分かる。そして入社後に若手社員が組織社会化から遠ざかっていく傾向は、採用市場の好・不況や時代に左右されず、常に見られるものなのだ。

若手社員の「組織社会化度合い」が低下する要因は、いくつか考えられる。しかし、ひとつ言えることは、企業が行うべき入社初期のモチベーションケアについては、モチベーションを“上げる”ことよりも、できるだけ“下げない”、あるいは低下してもその“下げ幅を最小限にする”働きかけだということだ。なぜなら、通常であれば下がっていくモチベーションを無理に上げようとしても、双方の意識の乖離が激しく、効果を発揮しないケースが多いからだ。

モチベーションの下げ幅を縮小するためには、まず入社直後の若手社員の心理を理解する必要がある。そのキーワードとなるのが「不確実性(uncertainty)の除去」である。

新入社員は、学問を教わる学生から組織の中で働く社会人へと、それまでに経験したことのない立場への移行を迫られる。その時、彼らは社会人として「何をしたらいいのか分からない」、さらに「どのように行えばいいのか分からない」という、2つの不確実性を抱えている。特に「まじめで堅実」「チャレンジをしない」と方々で言われている最近の若者たちにとって、この不確実性が不安となり、強いストレスになることは想像に難くないだろう。

不安は、仕事に打ち込むことの阻害要因になりうる。彼らに本来持っている能力を発揮させるためにも、不確実性の除去は大切であり、若手社員の組織社会化に欠かせない。

カギを握るのは「職場」

では、若手社員の組織社会化を促すにはどうすれば良いのか。それを知るために、まず組織社会化研究で語られる「プロセスアプローチ」と「コンテントアプローチ」という2つの領域を押さえておきたい。

プロセスアプローチとは、新入社員がどのような要因によって組織に適応していくのかという“手段”を探求するものだ。分かりやすい例としては、導入研修が挙げられる。また、キャリアパスの明示や日々の業務における動機づけなどもプロセスアプローチに当たる。一方、コンテントアプローチというのは、組織社会化を促進させるために習得すべき“知識や態度、行動の中身(内容)”の探求である。

特にプロセスアプローチでは、組織社会化を促進する要因として、これまで「組織」要因と「個人」要因の重要性が指摘されていた。しかし、近年の研究では、さらに上司や同僚との関係性、つまり「職場」要因も組織社会化に大きな影響を与えることが明らかになりつつある。

例えばあなたの職場では、自社が求める人材像や3年、5年、10年という単位で積ませたい経験などの育成ビジョンを確立し、それをトップ層や人事部門との間で共有できているだろうか。また、そのメッセージが、職場の上司も含め社員全体に浸透しているといえるだろうか。

ビジョンの確立、共有の徹底は非常に重要である。もし、導入研修などで新入社員にキャリアビジョンを明確にさせても、現場に配属された途端、直属の上司に「そんなことより先に、とりあえずこの仕事をやって」などと一蹴されたならどうだろう。新人は、目の前の仕事に目的を見いだせなくなってしまう。将来に向けた不安も、解消されないままだ。一方で、考える余裕など与えられる間もなく仕事は来る。そうなると「言われたことはきちんとやる」が、「将来を見据えて何をすればいいか分からない」状態が続いてしまう。

職場の上司は、自身も成果を求められるプレイングマネジャーであることが多く、部下の育成にまで手が回らないというのが現実であろう。しかし、人事と職場の間で、育成に対する認識が一貫していなければ、新入社員を混乱させるばかりだ。ひいては、期待していたポテンシャルを引き出せないまま無駄にしてしまい、早期離職につながってしまうのではないだろうか。

職場のサポートが成果に影響

実際に、職場要因が若手社員の組織社会化に影響を与えることは私が学会で発表した研究でも明らかになっている(図2)。

上司や同僚からのサポートを多く受けていると感じている入社1年目の社員ほど、自分の希望とは異なる“予期せぬ仕事”に対し、気持ちを切り替えて取り組もうとする「肯定的思考枠組」のスコアが高まることが分かった。このスコアが高い社員は、個人の知識やスキルと、職業上必要な知識やスキルとの合致を示す「個人-職業適合」のスコアも上昇した。さらにその1年後に追跡調査を行うと、職務パフォーマンスについてのスコアも高い、という結果が得られたのである。

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