J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2016年03月号

CASE 1 竹中工務店 新人教育と経験学習 複数部門への配属と寮生活で 省察や概念化の視点を深める

新入社員同士が1年間、同じ寮で暮らし、作業所を含む2~3の職場を経験するという竹中工務店の「新社員教育制度」。
初年度を「基盤教育期間」と位置づけ、人事考課も行わず、自社の伝統継承と基礎づくりに時間をひたすら費やす。
半世紀以上続く、同社独自の新人育成法を経験学習の視点でひもとく。


川井敏広氏 人事室 能力開発部 部長
松尾典之氏 人事室 能力開発部 課長

竹中工務店
1610 年に名古屋で創業、1899年に竹中工務店創立。建築工事及び土木工事の設計・監理をはじめ、都市開発などの環境整備に関する調査、研究、企画のエンジニアリングやマネジメントを手がける。
資本金:500 億円(2015年3月現在)、連結売上高:1兆1506億円(2014年度)、単体従業員数:7436名(2015年1月現在)


[取材・文]=竹林篤実 [写真]=竹中工務店提供、編集部

●歴史と価値観 経営理念と棟梁精神を培う

竹中工務店では人材育成、特に新社員(同社での新卒総合職の呼称)教育を重要視しており、さまざまな視野や経験をさせ、内省の機会を与えている。その背景にある考え方をまずは紹介したい。

同社の歴史をたどれば、江戸時代初期にまで遡る。創業は1610(慶長15)年、初代・竹中藤兵衛(正高)が名古屋で宮大工として神社仏閣の造営を始めたのが起源だ。1899年には神戸に進出して洋風建築を手がけるようになった。これが同社では「創立」とされる。

「当社では、建築を業とする者として高い技術力を保ち、構想・設計から施工、保守まで一貫して建築の全ての責任を担うことで、建物に対するこだわりと誇りを最良の品質へ結実させ顧客や社会の信頼に応えるという考え方を伝承しています。これは宮大工の棟梁を起源とし、創業以来400年にわたる長い歴史と伝統によるDNAを受け継ぐもので、その根本となる考え方を『棟梁精神』と呼んでいます」と、人事室能力開発部部長の川井敏広氏は説明する。

棟梁精神は、同社の経営理念「最良の作品を世に遺し、社会に貢献する」を体現するための土台だ。棟梁の役割である「建築主と相互信頼を築きつつ、職人たちをまとめ上げ“作品”を遺すこと」に通ずる。そして、「よい仕事がよい人を育て、よい人がよい仕事を生む」という人材育成の基本的な考えから、同社では「よい人」を育てるため、半世紀以上も前の1952年から、入社後1年間にわたる新社員教育を続けているのである。

●ねらい 誠実さの育成と伝統精神の継承

竹中工務店では新社員教育期間を「基盤教育期間」と位置づけており、人事考課を行わない。1年間をかけて、何を学ばせるのか。能力開発部課長の松尾典之氏は、そのねらいを次の4つだと語った(図1)。

①竹中社員としての基礎の修得

②個々人のキャリア形成の出発点を固める

③同期生間での相互研鑽④さまざまな部門での経験や多様な研修を通じて、社会人としての幅を広げる

「竹中社員の基礎(①)とは、社会人としての基本はもちろん、作品主義を中心とする“竹中イズム”や公共性の高い建設業に携わる者としての使命感や社会的責務などです。

キャリア(②)に関しては、この1年間が各自のスタートとなるので、さまざまな職種を経験することで、志望職種を見つめ直す機会とします。

また多様な個性とバックグラウンドを持つ同期生との寮生活を通じてお互いに切磋琢磨し(③)、社内外の人たちとのさまざまな関わりを通じて、社会人としても幅を広げてほしい(④)のです。そして何より、誠実な人間として成長し、竹中の伝統的精神を受け継いでいくことを期待しています」(松尾氏)

経験学習の観点では、複数の職場経験(ジョブローテーション)と「日誌」等を活用した日々の指導担当とのやりとり、そして寮生活が特に重要である。順を追って見ていこう。

●具体策1 ジョブローテーション2~3部門を経験

同社では新社員は、1年間のうち、3つの部門を経験する(設備系採用者は2部門)。

例えば採用職種が建築技術・建築施工系なら設計部(建築設計)→見積部や調達部→作業所(建築施工)へ、建築・意匠設計系なら設計部(建築設計)→技術部や見積部→作業所(建築施工)といった流れだ。

将来の配属や専門領域に関係なく、いずれの職種でも必ず組み込まれているのが「作業所」、建築現場での業務である。これにはどんな意味があるのか。

「作業所で行われている仕事こそ、当社の作品づくりの集大成です。作業所で得られる知識や経験は、後に就く職務や専門性と必ず関わってきます。

設計を例に挙げれば、いくら図面上はきれいに描かれていても、実際、作業所では納まりが悪かったり、そのまま施工しては使い勝手が悪くなってしまったりするケースがよくあります。

作業所でそうした場面を見聞きしたり関わったりしておけば、いざ自分がのちに設計する際、作業所での実際の施工を思い浮かべるマインドが養われます。そのことで初めて、施工のしやすさや品質の確保までを考えた設計が出来、良い作品を遺せるのです」(川井氏)

事務系の職種に配属になる人にとっても同様に、作業所での経験は重要な意味を持つ。

「技術系職種に限らず、内勤の事務業務にしても書類作成にしても、全ては作品の創出につながっています。それを知る意味でも、机上ではなく自分の目と身体で、当社のビジネスの根幹かつ最前線である作業所を体感することに意味があります」(松尾氏)

作業所を想像するマインドの他にも、棟梁精神や経営理念を感じさせるきっかけも、作業所の人との関わりや仕事の過程の中に埋め込まれている。それらを身体で会得させる効果があるのだ。

●具体策2 OJTと日誌よってたかってフィードバック

研修期間中、新社員には指導担当者がマンツーマンで配置される。前項の通り、新社員は1年で2~3部門を異動するが、その各部門で入社5年目以上の若手・中堅社員が指導担当に任命される。3部門を経験する場合、3回指導担当が変わることになる。

各部門では、基本的にはその指導担当と上長と本人で立てた教育計画に沿ってOJTが行われるが(図2)、指導担当以外の先輩たちからも、随時指導が入る。よってたかって「育てる」風土があるのだ。

期間終了時には、新社員は学んだことを部門内で「成果発表」する(後述)。

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