Part2 識者に聞く!① OPINION1 女性役員たちの証言から分かる ダイバーシティ時代の 新しいリーダーの在り方・育て方
Part1に登場した女性役員たちのリアルな声を、専門家はどう見るのか。
女性活躍研究の第一人者、法政大学教授の武石恵美子氏に、
吉田氏、山崎氏、水本氏の発言について解説いただくと共に、
女性リーダーのパイプライン構築に向けた、日本企業の課題と対策を尋ねた。
女性役員たちの共通点
女性活躍推進法が施行され、1年が過ぎたが、女性の社会参加には課題も多い。
各国における男女格差を4分野の指標で測るジェンダー・ギャップ指数だが、2016年の日本の順位は144カ国中111位。前年の145カ国中101位からさらに後退した。各国とも「経済参画」分野は男女差が大きくなる傾向にあるが、日本の場合はとりわけ顕著に表れていて、この分野においては118位という何ともお粗末な結果だ(図1)。企業における管理職や役員の女性が占める割合が少ないという課題を、ここで改めて説明するまでもないだろう。
現状についての原因をひとつに断定するのは非常に難しい。政策をはじめとする政治的要因と、戦後長い時間をかけて培われた生活習慣や企業慣習といった社会的要因が複雑に絡み合った結果だからである。
とはいえ、企業はこの現状を放置したままでいるわけにはいかない。今や、女性の能力発揮、つまりリーダー人材としての登用をはじめとするさまざまな施策を展開することが、競争力を高める有効な手段となっているのである。
今回、Part1に登場した吉田氏、山崎氏、水本氏のエピソードからは、女性が役員として企業で活躍するにあたり、いくつかの共通点が見られる。まずはそれらを整理したい(図2)。
①幅広い経験と人脈の構築
日本の企業では、社内でさまざまな業務をこなし幅広い人脈を築くことが経営人材になるための重要な要件といえる。これは人材の定着率が高い日本企業に特徴的な慣行であり、男女を問わずいえることである。
だが、配置転換や転勤、プロジェクトリーダーの抜擢といった業務の幅を広げる機会は、女性よりも男性のほうが高い傾向にある。こういった現象は「統計的差別」と呼ばれ、男女の別で見た場合、女性は出産や育児などのライフイベントを控えていることから、男性よりも中途離職のリスクを抱えていると見なし、採用や育成にかける投資を抑えてしまう現象を指す。
しかしながら今回登場の3人は、それぞれ新たな環境に身を置く境遇を経験し、そこでの挑戦により自信を深め、さらに上をめざすといった成功体験のサイクルができている。例えば、IHIの水本氏は本社に異動してからは新たなチームや部署を立ち上げる経験を繰り返し、ユナイテッドアローズの山崎氏は異動を通じて自身が成長したと認識している。
ともすれば、一部門という狭い範囲でジョブローテーションを繰り返すキャリアを築いてしまいがちな中、大胆な配置転換が彼女たちの成長を促していることが分かる。
②理解者の存在
3人の共通点の2つめは、彼女たちの能力を認め、サポートしてくれる人たちが存在することにある。
水本氏は、自身のミッションをやり遂げる力の源泉に「抜擢してくれたスポンサーの存在」を挙げている。いくら優秀な人材でも、能力だけでポジションを上げていくことは難しい。特に女性となると、全ての上司が取り立ててくれるとは限らない。活躍を強力にバックアップしてくれる人がいることは重要である。
水本氏に限らず、女性役員の中には「今の自分があるのは○○さんのおかげ」と、上司の名前を挙げて自身のキャリアを語る場面をよく目にする。もちろん男性で役員まで上り詰める人にも、師と仰ぐような上司や先輩が存在する人もいるだろう。だが、“スポンサー”という感覚は、女性特有のものではないだろうか。
また、ヴィックスコミュニケーションズの吉田氏は初めてプロジェクトリーダーを務めた際、同期や先輩がチームにいたことで気負いなくできたことが自信につながったし、役員になった直後は話を聞いてくれる相談相手の存在が大きかった。山崎氏は、経営企画部長になったばかりの頃、プロ意識の高い部下たちのサポートが心強かったという。