巻頭インタビュー 私の人材教育論 夢に向かって人事を示す時 人は最高の力を発揮する
1987年、日本国有鉄道の分割民営化により、JRグループ7社が設立された。うちJR東日本、JR東海、
JR 西日本の3社は90年代にいち早く株式上場。その後、2016年10月にいよいよ上場したのがJR九州である。
採算の厳しい路線が多く、経営努力だけでは企業存続さえ難しい。設立当初の予想を見事に覆し、JR 九州が飛躍できた理由は何か。経営にマジックはない。企業業績を向上させるのは、人の力だ。
見せる人事で社員のやる気に火をつける手法について、唐池恒二会長に聞いた。
株式上場と民営化30周年
―旧国鉄が分割民営化されて以来、ずいぶん時間が経ちました。
唐池
JR 九州も、ちょうど30年前に他のJR各社と同時に発足しました。本州のJR 東日本、東海、西日本は、それぞれドル箱路線を持つうえに、人口の多い地域で運行しています。そのため当初からこの3社は、経営はなんとかやっていける。これに対して、北海道、四国、九州の3社は、将来的に経営が好転するとは誰も考えておらず、3島(さんとう)会社と呼ばれ、非常に屈辱的な思いを味わわされました。
―ところが、その中から九州は、昨年、見事に株式上場を果たしました。
唐池
民営化初年度(1987年)は、一般企業の売上に相当する鉄道収入が1069億円なのに対して、赤字が売上の約3分の1に相当する280億円。経営安定基金の運用益により、ようやくトントンの状況でした。しかも、ちょうどその頃から九州では高速道路の整備が一気に進み、鉄道離れが加速していきます。経営環境は非常に厳しい。苦境から脱するためにどうすべきか。そこで初代社長の石井(幸孝)さんは、鉄道事業の改革と事業の多角化に取り組んだのです。その結果、鉄道事業が好転し、それ以上に鉄道以外の事業が伸びました。これらが実を結び、株式上場につながったのです。
新規事業の成功が躍進のカギ
―なぜ、業績が好転したのでしょうか。
唐池
駅ビル、マンション、ホテル、流通・外食などの事業で、いずれも九州のにぎわいづくりをテーマに展開したことが大きい。おかげさまで各事業とも右肩上がりの成長ぶりです。鉄道事業でも「ななつ星in九州」につながる「D&S(デザイン&ストーリー)列車」の開発に早くから取り組み、グループの中で先陣を切って運行してきました。
旧・国鉄時代は、社章をつけて居酒屋に入ることもはばかられるような、世間から叩かれていた会社でした。しかも業績はどん底に沈んでいる。そんな雰囲気を変えるには、「夢」が必要なのです。
夢に向かって一目散に突き進む時、人は最高のエネルギーを発揮する。夢を目標と言い換えても良いでしょう。向かうべき方向が明らかになれば、人は動くものです。だから苦しい経営環境から何とか脱出するために、鉄道事業の改革を進めると同時に、新規事業も強力に展開したのです。
そして、各事業がうまく回った最大の理由は、「本気度」です。鉄道収入だけでは経営が立ち行かないのは明らかでしたから、なんとしても多角化に成功しなければならない。副業感覚での取り組みとは本気度が違うのです。
―外食産業でも成功しています。
唐池
駅から離れた立地にレストランを出し成功しているのは、JRグループの中でも当社だけでしょう。まちなかの商業施設からテナント誘致の声が掛かるほど魅力的な外食産業を展開しています。コンビニエンス事業も、今ではJR各社が展開していますが、業界2番手のファミリーマートと早々に提携し、当社のグループ会社のドラッグイレブンとの融合店展開にまで踏み込んでいます。それもこれも、全ては本気度のなせるわざです。