人材教育最前線 プロフェッショナル編 バイヤー時代の交渉力は、人事にも活きる 「未開の地」を切り開くポジティブな貪欲さ
テレビショッピングをはじめ、あらゆる販売網をミックスしたダイレクトマーケティングを手掛ける、ジュピターショップチャンネル。
キャリア採用を中心とし、それぞれの分野のプロフェッショナルが会社をけん引してきたが、設立から20年を迎え、より全体的かつ経営的視点を持つ人材の発掘に力を入れ始めた。
長くバイヤーとして活躍し、その後、品質管理部門を経て、現在人事部門トップを務める山田将之氏は、自身の経験から「さまざまな世界に身を置いて、『自分の仕事』を発掘してほしい」と考える。その思いを聞いた。
バイヤー・品質管理から人事へ
通信販売大手のジュピターショップチャンネルは、商品の選定や管理に始まり、商品を紹介する番組制作や商品発送後の問い合わせ対応まで、全て自社でまかなう独自の形態をとっている。中でも特徴的なのは、自社スタジオから生放送される番組だろう。注文状況により販売方法をアレンジしたり、今、まさに注文した顧客と放送中のスタジオをつなぎ、直接顧客の声を聞くなど、臨場感溢れる演出は名物ともいえる。その間にも次々と商品が完売していく展開は、顧客の購買心理を刺激する。
そんな同社で現在、人事部門のトップを務めるのが、執行役員で経営企画本部副本部長兼人事部長の山田将之氏である。人事部門に異動になり、間もなく3年を迎える。入社以降、バイヤーとして魅力ある商品の発掘のため各地を駆け回り、その後4年ほど在籍した品質管理部では商品のお目付け役を担った。人事への異動を命じられたのは、入社から15 年目の2014 年の夏だった。
人事など、思いもよらなかった。そもそも前職もバイヤーひと筋でやってきたので、品質管理部に異動になる時も驚いたという。
「品質管理部では部長も務めていましたが、自分がマネジメント力に長けた人間だとは到底思えませんでした。ですから、私に人事をさせるなど、会社は何を考えているんだと思いました」(山田氏、以下同)
張りのある声で一言一言に力を込めて話す様子からは、誠実さとポジティブな貪欲さが感じられる。おそらく、現場が大好きなのだろう。侃々諤々を繰り返しながらも、何かが生まれる瞬間、心が躍る瞬間を追い求める山田氏の姿が想像できる。
だが山田氏は、時に人事が現場以上に社員たちを励まし、熱を注ぐ存在になり得ることを知っている。なぜなら、山田氏のキャリアは、「採用担当との闘い」に始まったからだ。
入社を決めた担当者との口論
山田氏は学生の頃から「製造とは違う形で、ものづくりに関わりたい」と考えていたという。「それならバイヤーだ」と、小売業界に的を絞り、就職活動を行った。中でも力を入れたのはスーパーだった。当時は西友が「無印良品」を開発したのを皮切りに、スーパー各社がこぞってプライベートブランドを立ち上げる動きが見られたからだ。
「まだインターネットもない時代で、就職活動もアナログでした。アポイントもなしにそれぞれの会社の本社へ出向き、『そちらで働かせてください!』とアピールしていました。今では、ずいぶんと思い切ったことをしたな、と思いますが」
思い立ったらすぐ行動に移すバイタリティーが評価されたのか、最終的に2つの企業から内定をもらった。1 つは、当時日本一の売り上げを誇っていた巨大スーパーチェーン、もう1 つはそこまでではないにせよ、世間に名の知れたチェーンストアだった。「決まりに束縛されず、好きなことができそう」という理由で、山田氏は後者を選んだ。そして、もう1 つの内定先である、日本トップのスーパーチェーンに入社辞退の旨を伝えるためにかけた1本の電話が、同氏の運命を変える。
「当時の就職は“売り手市場”といわれていた時代ですから、引き止めにあった時の説明を考えながら電話をかけました」
ところが、先方の人事の反応は予想を裏切るものだった。
「入社を断る電話を入れたのに、なぜか相手から入社を断られたんです。『こちらは日本一のスーパーですから、生半可な気持ちで来られても困ります』って。もう、びっくりですよ。なぜそんなことを言われなければいけないんだって思いましたね」